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『字を書く女 中年書道再入門』酒井順子さん|本を読んで、会いたくなって。

大人になって再発見した書道の楽しさ。

さかい・じゅんこ●エッセイスト。1966年、東京生まれ。立教大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。『負け犬の遠吠え』『紫式部の欲望』『子の無い人生』など著書多数。『日本文学全集』(池澤夏樹・個人編集)にて「枕草子」の現代語訳を担当。

撮影・森山祐子

 世のアラフィフ女性にとって習字とピアノは、誰しもが経験したお稽古ごとの双璧に違いない。

 酒井順子さんも、そのひとり。

「ピアノは親に嘘をついてさぼるほどつらかったのですが、お習字は好きでした。子ども心に“書く”という行為そのものが楽しくて。その後、文章を書くことを生業にしてきましたが、“文章が好き=文字が好き”というところがあって、今でも根っ子の部分は同じなんですね」

 20代後半で初めて一人暮らしを始めたときに、たまたま近所で見かけた書道教室に通い始める。

「久しぶりに書きたいという欲求が湧いてきまして……。そこで“かな”という書のジャンルを初めて知ったのですが、柔らかく角のない線は、満足に読めないし、なぞれないし、どうにも性に合わない。自分には力強くガシガシ書ける“漢字”のほうが合っていると痛感しました」

 引っ越しとともに、しばらく遠ざかってしまっていた欲求に再び火をつけたのが、書道雑誌『墨』からの連載の依頼だった。

「書くのなら“漢字”を、とすかさずリクエスト!(笑)。教えてくださった大東文化大学書道学科教授の河内君平先生は、とても優しい方で学究肌。最初はごくごく簡単な手習いのはずだったのに、どんどん難しいほうへと導いてくださり……。様々な文字に接することができ、有意義な2年間でした」

 硯選びから始まり、般若心経、王羲之、顔真卿、藤原行成、空海、平塚らいてう、壺井栄などの書体に次々と挑戦していった酒井さん。本書の写真では、毎回、真剣ながらも心から楽しんでいる様子だ。

「昔の中国の人たちが、いかに字の上手い人を尊敬していたか、それぞれの時代の文字信仰を知る面白さにも打たれました。実は私、西洋文化にはまったく興味がなくて大の中国文化好き。今も卓球教室と中国料理の教室に通っているくらい(笑)。ええ、リオオリンピックの卓球も堪能しました」

 連載が終了してから、なかなか筆を持つ時間がとれないという酒井さん。

「字を丁寧に書くことを心がけるようにしています。パソコンやスマホによって、手で文字を書く機会が減っているからこそ、書き文字が目立つ時代。上手い下手より、ちゃんと書こうという姿勢が滲み出ているか、が大切だと思います。若い頃は丸文字が流行していたとか、文字はいろんなことをバラしてしまいますからね(笑)」

芸術新聞社 1,600円
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