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『戦争まで  歴史を決めた交渉と日本の失敗』加藤陽子さん|本を読んで、会いたくなって。

間違った選択をしないための作法を。

かとう・ようこ●1960年、東京生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。前作で小林秀雄賞受賞。ニーチェの言葉をひき「歴史家は墓掘人夫」と語る加藤さん。歴史を語りつつ未来を見つめる眼差しは、墓を掘っていると見せかけ、その土で新しい何かを拵えているのだとお見受けした。

撮影・岩本慶三

前作『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』から7年、歴史学者の加藤陽子さんが今回読み解くのは「戦争まで」に行われた世界との大きな3つの交渉事(リットン報告書、日独伊三国軍事同盟、日米交渉)。中高校生への講義という形を得て、読者もともに歴史の背景へ分け入ることができる。

「前作のときに、政策決定に携われなかった国民が戦争を『選んだ』としたことに多少反発がありました。『選択』というものが不可避だったのかと。今回の本で言いたかったのは、戦争の前、外交交渉というのが例えば10年くらいかけていろんな場面で起こるわけですね。太平洋戦争だったら、満州事変からと。この、戦争に至るまでの10年の間に様々な選択肢があって、政府にしろ大衆にしろ、やっぱり選べたんだろうという事実がある。戦争という帰結への一本道ではなく、前段階の外交交渉や過程を丹念に追っていくとそれがよくわかります」

決断の背景には人間くさい駆け引きや偶然が積み重なっていることを資料をもとに説いていく。

「クロワッサンの読者のみなさんにお伝えしたいこととしては、私もこれまであまり意識してこなかったのですが、日本は異常なことに、戦前期まで女性に参政権がなかったということです。究極の言い方をしますと、戦争を許す内閣を選んだり、軍事予算を増大させることを許す、その議会を運営する議員を選んだ男性には責任関係はあるが、女性にはない。とすると、私はふと思うのですが、戦後というのは、女性も国会に進出し、自由な責任を負えるようになり、男性が選んできたんだからという逃げができなくなった世の中なんだな、と」

それはまた、未来を考える上で頼もしいことなのだと言う。

「安倍内閣の安保法案等に対して国民がデモをしましたよね。お子さんを抱えた母親たちなど女性が数多く参加した。’11年の原発事故で未来に対して危機感を抱いたことがきっかけかもしれません。女性は自らが問われていることを自覚したんだと思います。そして、女性に特有なのは男性より長い時間に——子を育て、孫が暮らすその未来にまで——思いを馳せることができる。その強みが今、女性のリベラルさに出ているのかなと、一人の歴史家として心強く思っています」

一人一人の選択が問われる今、間違った選択をしないために、過去の歴史から学べることは多そうだ。

朝日出版社 1,700円
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