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『漂うままに島に着き 』内澤旬子さん|本を読んで、会いたくなって。

瀬戸内のきれいな海に癒やされて。

うちざわ・じゅんこ●1967年、神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。『身体のいいなり』で第27回講談社エッセイ賞受賞。著書は他に『世界屠畜紀行』(角川文庫)、『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)、『捨てる女』(本の雑誌社)等多数。

撮影・岩本慶三

内澤旬子さんが東京を離れ、地方へ移住すると聞いたのは、ちょうど3年前の夏だった。その後、会うたびに元気になっていく内澤さんを見て、移住は正解だったのだなあと思う。今回の新刊を読んで、その思いをさらに強くした。

小豆島に移ってから、内澤さんは変わった。まず、失礼ながら、性格が明るくなった。こんなに相手の目を見て話すひとだっけ?

「偏屈なのは相変わらずですが(笑)、確かにいろんなプレッシャーから解放されたかも。イヤなことがあっても、瀬戸内海のきれいな海を見ていると、くよくよしても仕方がないなって思います」

肉体的にもますます健康的に。島内や高松市のヨガ教室に通い続け、その結果、本誌のヨガ特集(925号)では難易度の高い美しいポーズをいくつも披露してくれた。

生活も規則正しくなったそうで、
「毎朝5時にヤギに起こされ、小屋の掃除や散歩。午後もあれこれ用事や作業があって夜9時くらいには眠くなってしまうので、本を読む暇がないのが悩みです」

本書は内澤さんが東京脱出を思い立ち、移住先を探し、家を見つけ、島の暮らしに溶け込むまでの顛末を描いている。移住先の土地の選び方や島の家賃相場、離島への引っ越し手段とその費用、人間関係で気をつけるべきことまでとても具体的。臨場感があって面白く、地方での暮らしに憧れている人には大いに参考になると思う。

印象的なのはふらりと島に移住してくる30代、40代の単身女性が多いというエピソード。短いサイクルで出て行く女性も多い。

「漂ってるんですねえ。配偶者でも見つかれば別ですが、女の人が島に居つくのは難しいのかな。私だって居ついてるのかどうか」

とはいえ内澤さん、東京へ戻る気はさらさらない。島暮らしは「夢じゃない?」と思うほど楽しいし、家族同然の動物たちがいる。

「動物たちと別れるなんて、寂しすぎます。もし島を出るとしたら連れて行くしかないけれど……、ヤギの親子を連れて放浪する女というのも怖いですよね(笑)」

「女三界に家なし」という。女性はこの世界のどこにも落ち着ける場所がないという意味だが、元になった仏教の説話はニュアンスが違う。「三界」とは「欲界・色界・無色界」のことで、つまりこの世界に執着を残していない、すぐれた境地のことを指しているのだ。

「なんとかなるよ。生きていれば」

そう書く内澤さん、新たな境地に入りつつあるのかも?

朝日新聞出版 1,500円
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