書き始める前は、ひとりの少年の成功譚としての小説も視野に入れていたという木内さん。
「でもちょうど連載が始まる前に福島の原発事故が起こりました。あのとき、東京電力を悪者にして世間は落着していましたが、国も私たち自身も核について無知だった。まずはそこを掘り下げなくてはならなかったと思う。このたった5年で、原発反対の機運や節電意識も遠のいて。反省すべきときに反省しないからいつまでも戦争は起こるし、何も変わらない。国も人も最初は、世の中をよくしたいというような理念があるはず。でも組織に取り込まれてしまえば人間関係により集中してそれを忘れてしまう。一個の歯車になってしまう。そういうときにすごく危ういこと、理念から離れてしまうことが起きるんじゃないかと」
それは、自分の技術を世に知らしめたいと願うあまり他を顧みることができなくなっていく音三郎の人生にもあてはまる。