収納スペースは充分でも、年齢とともに使い勝手が悪くなる。これまで数々のリフォームを手がけた建築家の天野彰さんは、その原因は生活行動や利便性に合わない収納場所に物を入れていることが最大の原因と話す。
「床から天井まである立体収納は脚立や踏み台を使わなければ、高いところにあるものは取り出せませんし、床下や屋根裏収納などにしても、無理な姿勢をともなうので、年老いてからは使いこなすのが容易ではありません。
押し入れのような大きな収納スペースは奥行きに合わせて物を押し込めば取り出すことができなくなる。収納というと、物を入れることのみを考えがちですが、年齢を重ねるとともに大事になってくるのは収めたものを取り出せるかどうかです」
物理的に高すぎたり、低すぎたりあるいは目や手が届かない場所に入れたものはそのまま〝死蔵〟になり、そのうちに記憶からも消えていく。
「リフォームの際に屋根裏からそれまで見つからなかった金庫が出てきたこともあります(笑)。今の収納を見直して、手の届くところに必要なものを置くようにしておきたいですね」
具体的に〝不便で危険〟な収納スペースを5つ紹介するとともに、その改善方法も天野さんに聞いた。「床から30〜170㎝ぐらいまでの間に普段使うものを入れる〝ゴールデン収納〟をこころがけて、それ以外の場所は収納をやめるか、めったに使わないものだけを収めることが肝心です。もし上のような場所を使うなら、広い収納スペースは収めっぱなしにならないように、中をきちんと仕切る。あるいは取り出しやすいように可動式収納にしてください」
【キッチンの吊り戸棚】高所に収めた食器は将来取り出せない。
食器や調理道具など多くのものの整理が必要なキッチンの収納。吊り戸棚が多く、上の棚は脚立を使わないと手が届かない。「床から160㎝ぐらいの高さに吊り戸棚は作られています。そのため年齢を重ねると開けた扉に気づかず頭をぶつけたり、手を伸ばして食器を取る際に誤って他のものを落としたりします。キッチン台の上から40〜50㎝の高さまで下げた棚にすれば、使いやすく、扉の角にぶつかる事故も起きません」
【階段下などのすきま収納】変形スペースは雑多なものを詰め込みがち。
狭いなかでの工夫の賜物と呼べる〝すきま収納〞。デッドスペースを活用して物を入れられる空間が作られている。「階段下などいい例ですが、広さはそこそこあっても、形が三角形で使いづらく、ついつい雑多なものを入れがちです」また奥行きも階段の幅に合わせてあるので、中に入れたものが取り出しにくくなりがち。「キャスター付きの引き出しをスペースに合わせて設置すれば不便さが解消できます」
【床下収納】無理な姿勢でかがむと怪我や腰痛の原因に。
「いちばん危険なのが床下収納です。特にキッチンにあるものは、たいてい狭い床に設置されています。無理な体勢でかがみこむことになるうえに、瓶や鍋など重いものを入れがちなので取り出すときに腰を痛めたり、怪我をします。今のうちから使わないほうがいいのです」少ない収納スペースを捻出するために考えられた床下だが、老後を考えると百害あって一利なし、と天野さん。「建築士側からすれば、リフォームの際に収納箱を外せば、そのまま建物の基礎部分を目で確認できるので便利ですが、住んでいる方で、そんなチェックをする人も稀ですし、入れっぱなしにしている人も少なくない」床下は一年中涼しい場所なので、梅酒や漬物などを保存している人もいる。「〝涼蔵庫〞として、活用している方は、キッチン下や隣接する場所に断熱材を入れた引き出し式の収納を作って、保存するのがおすすめです」