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『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』柳澤健さん|本を読んで、会いたくなって。

’70年代を軸にした青春ノンフィクションです。

やなぎさわ・たけし●1960年、東京生まれ。作家。慶應義塾大学卒業後、文藝春秋に入社。『週刊文春』編集部等に在籍。’03年退社後はフリーとして活動。著書に『1985年のクラッシュ・ギャルズ』『1964年のジャイアント馬場』等がある。

撮影・森山祐子

——世の中には広く知られていないけど素晴らしいものがある。本当にいいものは隠れているから、自分で探さないといけない——

  TBSラジオの深夜放送『パックインミュージック』は1970年代に多くの若者の心をとらえた伝説の番組だ。なかでも’70〜’74年のあいだ金曜午前3〜5時のパーソナリティを務めた同局アナウンサー林美雄の番組、通称「林パック」は冒頭の言葉をもとに、当時無名だった荒井由実(現・松任谷由実)の「ひこうき雲」を発掘したり、低迷していた日本映画の魅力を熱く語ったり、デビュー前のタモリを生出演させるなど先鋭的内容で熱狂的なリスナーを獲得したことで知られる。

「僕自身は林さんの番組を聴いたことがなかったのですが、文芸誌の編集長から林さんを題材に青春ノンフィクションを描いてほしいと言われて、書き始めたんです」

 柳澤健さんは『1976年のアントニオ猪木』でデビュー後、プロレスラーを題材に多くの作品を描いてきた。書名の「1974年のサマークリスマス」は林さんの番組が終了する直前の’74年8月にリスナー400人が代々木公園に集まったイベントにちなんだ。

「当日は嵐になって急遽TBSのスタジオに移動した参加者は共にびしょ濡れになったユーミンが歌う『ベルベット・イースター』や石川セリの『八月の濡れた砂』を聴くんです。’70年代の空気感を描くうえでいちばん印象的な出来事だなと思ってタイトルにしたんです」

 柳澤さんは人物ノンフィクションを描く際、心に留めていることがあるという。

「師匠の橋本治(作家)に言われた言葉ですが、“書くことは愛することだから、書き終わったらその人を愛していなければ書いたことにならない”と思っています」

 今回も林さんを“愛する”ために柳澤さんは同期の久米宏さんや一期下の小島一慶さん、ユーミンや山崎ハコさん、林パックを存続する会を結成したリスナーたちなど約70人を取材。その証言と企業内自由人と呼べる多面的活動を丹念に紡いだ本書は、熱い季節を駆け抜けた58年の林さんの生涯が鮮やかに浮かび上がってくる。

「林さんのことを書くので話をうかがいたい、と言うと誰もが“何でも協力する”と言って、感謝の思いとともにいろいろなエピソードを話してくれましたし、夫人の文子さんは家庭での姿をあますところなく語ってくれました。林さんは欠点はあるけれど、すごく愛すべき人だったとこの本を書き終えた今は思っています」

集英社 1,600円
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