『きずもの』 著者 西加奈子さんインタビュー ──「人はみな多面体で、傷だらけで生きているもの」
撮影・若木信吾
西加奈子さんの新刊は、男女の幼なじみ二組を中心にした群像劇。彼ら/彼女らの間に流れる数十年の時間が、ある事件をきっかけに交差し、蛇行し急流となって関係性を変えてゆく。
小説家の貢(みつぐ)は、スポーツ万能な幼なじみの猛(たける)を長い間仰ぎ見てきた。一方、貢がパーティで出会い関係を持った遥(はるか)には、長年の親友でボス的な存在の万千花(まちか)が。遥は万千花を追ってカナダ・バンクーバーで共同生活を送ることになり──。
猛の妻や娘たち、貢の元恋人や仕事相手など、物語には多くの人間が交錯するが、誰もが誰かを羨みながら生きている。その感情の描写のリアルなこと!
「長編は書いていると付き合いが長くなるので、愛情が湧きますね。ひとりひとりに事情があって人生がある、PCを開くたびにそれがリマインドされて、登場人物みんなと一緒にいる気持ちでした」
人間はパッチワーク。1枚の布でできている存在ではない
これまで多くの作品で、不完全さを抱えて生きる人間を慈愛に満ちた筆致で書いてきた西さんだが、本作の背景には世の中に対するある思いがあった。「有名人が事件を起こしたときのバッシングが、あまりに強すぎると思って。拘置所から出てきて『申し訳ありませんでした』と世間に対して言うのがすごく象徴的ですよね」
違法な行為は法によって裁かれる必要があると言いながらも、「罰するのは司法であって、私たちではない。みんながそういう人たちを線引きして『ここからここまでは叩いていい、罰していい』とする風潮はどうなのか。今マジョリティにいる自分も、何かのきっかけでそちら側に行くかもしれないという意識が常にあります」
本書のタイトルは「きずもの」。
「日本ならではの言葉やな、と思います。女性に対して使われることが多いし、プロダクトが返品される理由になったりと否定的な文脈で語られる。でも『人間って全員そうやん!』と思う。人間はプロダクトじゃない。まっさらでツルッとした、完全な円形みたいな存在ではないですよね」
本作は、傷だらけの人間たちが、それぞれ願うもの、正しいと信じるものを求めてもがく物語だ。時に滑稽で悲しく、それゆえにひどく魅力的だ。作中で、貢の知人の小説家が言う。〈私はパッチワークみたいな人間で(略)一枚一枚柄が違うんです。しかも平面じゃなくって、レイヤーがあって〉
「人間は多面的であるということを常々思っています。先ほどの話の誰かを罰する感情も、その人の持っている1枚の布だけ剥ぎ取って『この人こんなに汚いんです!』とするのと同じこと。逆に、少女漫画の不良が雨の路地裏で仔猫を抱き上げているのを見て『ドキン!』みたいなことも納得いかない(笑)。今はインターネットが強いから、誰かが生身の人間であることを忘れがち。人間はもっと複雑で変わることだってある、そんな存在であることを伝えていけたら」
『クロワッサン』1174号より
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