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『走れ、無印の馬』 著者 谷川直子さんインタビュー ──「お金では動かない馬を書きたかった」

作家デビュー前から温めてきた構想40年の物語。レジェンド騎手・武豊さんも帯に推薦文を!『走れ、無印の馬』──本を読んで、会いたくなって。著者の谷川直子さんにインタビュー。

撮影・北尾 渉 文・堀越和幸

谷川直子(たにがわ・なおこ)さん 1960年、神戸市生まれ。2012 年「おしかくさま」で第 49 回文藝賞を受賞。ほかに『断貧サロン』『四月は少しつめたく て』『世界一ありふれた答え』『その朝は、あっさりと』などの著書がある
谷川直子(たにがわ・なおこ)さん 1960年、神戸市生まれ。2012 年「おしかくさま」で第 49 回文藝賞を受賞。ほかに『断貧サロン』『四月は少しつめたく て』『世界一ありふれた答え』『その朝は、あっさりと』などの著書がある

無印の馬とは、競馬の予想で専門家などの評価が低く◎や▲などの印がまったくつかない馬のこと。谷川直子さんは作家の肩書きのかたわら、競馬ライターを40年間続けてきた。そもそも競馬を始めたのは、お金がなかったから。

「前の夫と結婚していた時すごい貧乏で、競馬でもやってみる?という話になって。で、初めて競馬場に行ったら、大きな馬がたくさん走っていて、その競走に人が賭けているという不思議な世界に一気に引き込まれてしまいました」

物語は競馬ファンの乃里が引退した競走馬のカリカリウェンディを引き取り、その馬に子どもを産ませて新たな競走馬を育てたい、という野望から始まる。一般の会社員でしかない乃里を金銭的にサポートするのは激安ショップの経営者・隼人、そして馬の世話をする厩務員の巧、さらには何かにつけて彼らの行く手を阻もうと立ちはだかる資産家の阿久津という対立の構図の中で小説は進む。

「競馬の取材をやっていると、騎手だけではない、馬主さんから厩務員、調教師……と、一頭の馬の周りにはたくさんの人が関わっているのがよくわかる。本作ではそんなこともしっかり伝えたかった」

競馬は勝つとお金を生むが、馬はなぜ走るのか?

生まれた馬はトレジャリーと名付けられた。サラブレッドは年間に約7500頭が生まれ、デビューできるのは約7割。そこから生き残って活躍するのはほんの一握りだ。デビューは果たしたものの、3歳になったトレジャリーはいまだに一勝も挙げることができない。

「3歳になると、3回連続して8着以内に入れないと、2カ月間出走できない、通称スリーアウトというルールが中央競馬会にはあります。このルールで引退する馬も少なくない。そして、最初の一勝がいかに難しいか、とは多くの関係者が口を揃えるところ」

阿久津はある理由で隼人のオンラインショップの妨害を図る。阿久津もまた馬主であり、彼の持つ3歳馬、ディグニティをトレジャリーが負かすことができたら、妨害をやめるという取り決めが交わされて、物語は大きく動きだす。

競馬は勝つと大きなお金が人間に入る。では馬はなぜ走るのか?〈馬はしゃべらない、だから面白い〉といった類いの記述が、小説では時おり顔をのぞかせる。

「こんなにお金に近いところにいるのに馬はお金では動かない。お金で買えないものは本当にあるのか?ということは、私のずっと追求してきたテーマでもあるので、その象徴として、しゃべらない馬が大切な存在となりました」

潜在能力を匂わせながらも、それをなかなか発揮しようとしないトレジャリーはここ一番のレースに勝てるのか? ところで、ここ一番のレースで、人間たちはよく涙を流すが、あの涙の正体は何か?

「私もです。馬が無心でゴールを目指す姿の、生き物としての命を燃やす感じに、感動するんですよ」

谷川さんにしか書けない小説だ。

『走れ、無印の馬』 作家デビュー前から温めてきた構想40年の物語。レジェンド騎手・武豊さんも帯に推薦文を!河出書房新社 2,090円
『走れ、無印の馬』 作家デビュー前から温めてきた構想40年の物語。レジェンド騎手・武豊さんも帯に推薦文を!河出書房新社 2,090円

『クロワッサン』1173号より

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