年齢を重ねることで筋肉の減少や機能が低下することを「サルコペニア」という。サルコペニアが進行すると、膝痛、腰痛、骨折などによって歩行が困難になる運動器障害、「ロコモティブシンドローム」に陥るリスクが高まる。その後は、肉体的にも精神的にも生活機能が全般的に衰える「フレイル」を経由して、要介護状態になるというドミノのような図式です。
要支援・要介護状態になる原因はさまざまなものがありますが、第1位はやはり運動器の障害によるもの。サルコペニア→ロコモティブシンドローム→フレイル→介護状態というルートが最も多いことがわかっています。
ならば、最初に生じるサルコペニアを防ぐことができれば、健康寿命を延ばすことができるはず。
30代以降、何もしなければ筋肉は年に0.5〜1%ずつ減っていくと言われています。減っていく筋肉のほとんどはお尻や太ももなど下半身の筋肉です。
下半身の筋肉のボリュームがもともと大きいというのが、その理由のひとつ。とくに、上半身の筋肉が少ない女性の場合は、全身の筋肉量の約70%は下半身の筋肉で占められています。
もうひとつの理由は、下半身の筋肉を使った運動の機会が減ってしまうことにあります。2本の脚を使うウォーキングはその運動の代表格のひとつ。
「歩行は人間が生まれながらに持っている運動習慣です。歩幅もそうですが、歩行速度や歩くリズムもサルコペニアなどのカラダの虚弱化に関わってきます。正しい姿勢と大きな歩幅で歩くということは腰痛予防になり、ひいてはサルコペニアやロコモティブシンドロームへの進行を防ぐことにつながります」
高齢になって歩幅が狭くなり、歩くスピードが極端に遅くなる人もいれば、80歳、90歳でかくしゃくと歩いている人もいます。年齢を重ねてからの歩行レベルが、その後の健康を左右すると言ってもいいくらいなのです。
「大きな歩幅を確保する→腰痛を改善する→健康寿命を延ばす。脊椎外科医の視点からこうした流れを提案していきたいと考えています」