作って使ってなお愛おしい──イラストレーター・大石さちよさんのクラフトライフをのぞき見!
撮影・青木和義 構成&文・堀越和幸
かぎ針編みのブランケット、クロスステッチのクッション。手描きの絵皿、棚に並べられた人形……、まるで部屋自体が一つの作品集であるかのようにたくさんの手作りの品で埋め尽くされているのは、イラストレーター・大石さちよさんのリビングだ。大石さんは今の仕事をする前には、アパレルデザイナーをしていた。
「昔から手仕事が好きだったわけではないんです。唯一の思い出に残っているのは、小学生の頃にキューピー人形の服をかぎ針で編んだことくらい」
きっかけは大学卒業後にファッションの勉強をしたくて行ったロンドンの留学時代だった。そこで初めてテキスタイルデザイナーのヒカルノグチのニットに出合った。
「伝統的な柄を思い切った色合いで編んだニットに、編み物ってこんなにかわいいの?と感動したんです。言ってみればただの糸の組み合わせなのに、すごい。糸の可能性を感じました」
帰国後、大石さんはすぐに編み機を購入して、マフラーや人形を次々に編み始めた。そしてそれは服飾の仕事へともつながっていった。
「仕事で服作りしながら、趣味の手仕事も続けていました。忙しかったです」
その情熱の源は、実はインテリアからだと大石さんは自分を分析する。
「自分がかわいいと思うものだけに囲まれて暮らしたいんですよ。色も、素材も。それを突き詰めていくと、結局、自分で手作りするしかないんです」
アクセサリーが作りたくてアパレルの会社を辞めてから彫金も習った。数年後には陶芸教室にも通い始めた。
「物を作る時は、家の中を見渡して材料を買い集めます。ここにこんなものがあったらいいな、と。それが完成した時の“やっぱりかわいくなった!”と思える瞬間は、何にも代えられません」
【KNIT】カバーから鞄まで、かわいい編み物たち
大石さんの編み物仕事は同時進行で、部屋にはいつもだいたい3つくらいの編みかけのものが置かれている。
「編みたい、というイメージが募ると止められない。つい手が動いてしまう」
今年は春から赤×白のボーダーのサマーセーターを編み始めたが、とうとう夏には間に合わなかった(上写真2枚目)。
「それでも必ず完成させます。隙間時間でマイペース、が私のスタイルです」
鉢植えのオブジェ
普段は部屋の天井から吊るしてある編み物の植木鉢。「昨年、無性にこの上なく無駄なものを作りたいという気持ちにかられ、かぎ針編みで作りました。視界に入ると和みます」。上の写真は、編み機で編んだ人形。
ミシンカバー
「かぎ針を使った“細(こま)編み”で編んだ2種類のミシンカバーです」。編み目がぎゅっとしていて、生地は硬めの編み地に仕上がっている。「細編みは完成までに時間がかかりますが、長く使うカバーにはピッタリです」
自分の顔、その他ブローチ
オーソドックスなツイードのジャケットにこんな編み物ブローチはいかが?という大人の遊び心。「顔モチーフは私です。それに唇モチーフと、吸いかけのタバコを作ってみました」。視線は思わず衿元に釘付けに。
人形モチーフの器カバー
たとえばリビングのバスケット。郵便物、リモコン、ペン……みんなが好きに物を放り込むからカオス状態に。「そんな時にかぶせるための蓋が欲しくて編んでみました」。スカートに見立てたフリルの編み込みがかわいい。
かぎ針編みのポシェット
「これは〈DARUMAの編み物キット〉を購入して作りました」。プラコードという硬い糸、模様は花柄、編むのに骨が折れたが、「そのかわり、出来上がりはしっかりしていて、さらにかわいい! すごく重宝しています」
【POTTERY】粘土をこねて絵を描き窯に託す、陶芸の楽しみ
陶芸教室には、会社から独立して仕事も安定した頃から通っている。先生はめったに褒めてくれないが、「猿の小物入れを作った時は、“かわいいじゃないか!”と声をかけられて、うれしかった(下写真)」。
陶芸の魅力は、最後は自分の力が及ばなくなる点。
「窯から出てくると予想を裏切られる。思った以上にもなるし、そうならない時も。それが楽しい」
狸の塩壺
我が家の食卓には塩入れがなくて不便、と思い作った、なんとも愛らしい狸モチーフの壺。「ザラッとした質感が塩入れには合うかなと思い、釉薬をかけずに焼き締めました」。専用スプーンもセットになった作品。
縞柄の花瓶
部屋に似合うこと、さらには実用性を意識して作った花瓶。「今日は違いますが、もちろん生花も活けます」。ちなみに、キルティングのチューリップは、区役所内のお店で販売されていた、高齢者の手作り作品だそう。
シンプルなペン皿
ある日机周りを片づけるにあたってペン皿が欲しくなりネットを検索していた。「でも、どうしてもこれというものが見つからず、自分で作りました」。粘土をペタペタ成形して焼くだけで、こんなに味わい深いものが。
猿の小物入れ
大石さんはお風呂の絵が好きで普段からよく描いている(ちなみに名刺もお風呂の絵だ)。「その好きなイメージを焼き物で表現してみました」。これこそは、普段は厳格な陶芸の先生からお褒めの言葉を得た作品。
いろいろキーチャーム
忍者や学生や埴輪などなど……、見ているだけでワクワクしてくるキーチャーム。「鍵につける小さな飾りです。最近巷で流行っている、アンブレラマーカー(傘につける目印用のチャーム)としても使えますよ」
【ACCESSORY】カジュアル素材で繋ぐ、個性光るアクセサリー
アクセサリーではネックレスをよく作る。
「比較的安価な天然石や淡水パール、さらにはプラスチック、ビーズとカジュアルな素材を自由に組み合わせて作るのが私流です。ペンダントヘッドはあらかじめ作っておいて、あとは糸を通すだけ」
それでこんなに楽しいものができあがる。ちょっとしたおめかしにも、自分らしい個性の演出を。
素材の組み合わせの妙
使われている材料は淡水パール、天然石、プラスチックビーズなど。「混ぜて使うとこんなポップに。大人も使えるカジュアルな感じ」。ペンダントヘッドは右端がプラスチックで、左端のものとイヤリング(中央)は陶製だ。
おめかしに淡水のパール
こちらは淡水パールのシリーズ。ちょっとしたおめかしの時に大活躍。「チャームの熊と小鳥は共に陶製。小鳥のほうは、かつて習った彫金で習得したワックスモデリングで型作りをした力作です。型作りの作業は大変だけど楽しい」
ビーズは自由な色使いで
ビーズの持つ色の美しさとかわいさをひたすら追求したネックレス。「細かいので糸に通すのが一苦労。そのかわり完成時はひとしおです」。モチーフは、左から陶製のレモン、中央がハート、右のとぼけた顔は洋梨なのだそう。
なんでも縁をつけるとかわいくなる! エジングのすすめ
ここでは手仕事の達人、大石さんに、ちょっとした工夫や一手間で、既存の製品が愛着のあるひと品に変わるアイデアを教わった。それは、縁飾り。「ハンドタオルでも手ぬぐいでも、何でもいい。それにかぎ針で縁飾りをつけてみましょう。するとありふれたものが特別なものに生まれ変わります。海外ではこの作業をエジングと呼びますが、縁をつけると何でもかわいくなるというのは私の持論です」。編み物を始めたばかりの頃は、大石さんもエジングの専門書と首っぴきでいろいろなものに施し、それが練習にもなったのだそう。ぜひ試してみよう。
『クロワッサン』1176号より
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