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【岩井志麻子×滝本誠 対談】異世界をのぞく、偏愛的読書の愉悦。【後編】

作家の岩井志麻子さんと映画評論家・滝本誠さんによる読書談議。今回は昔に読んで衝撃を受けた作品について話が広がりました。
  • 撮影・三東サイ   

滝本 岩井さんの読書の原点を教えてください。

岩井 子どもの頃から怖い話ばかり読んでました。今でもよく覚えているのは上田秋成の『雨月物語』の中の一編「吉備津の釜」ですね。まさに私の故郷の岡山・吉備津神社にある、神事の占いに使う釜にまつわる話です。この釜の占いで悪い結果が出たのに結婚した夫婦がいました。妻は美人でよくできた嫁なんです。ところが、夫は器量もよくない飲み屋の女と浮気して駆け落ちしてしまう。それを恨んだ嫁が生き霊となって2人を追いかけるんです。これって今考えるとツボですよ。美人でよくできる嫁は息苦しく、不美人で気が楽な女といるほうが楽しい。きれいな奥さんのいる男が、まさかと思うような女と浮気、って今もよくありますよねえ。あのシュワルツェネッガーだって、家柄がよくて頭のきれる美人の妻がいながら、ものすごくガタイのいい、おばさんみたいな家政婦さんとデキちゃった。

滝本 たしかに!(笑)

『改訂 雨月物語』 上田秋成 鵜月洋 訳注 角川ソフィア文庫

岩井 でも、この話のオチはすごく怖い。部屋中にお札を貼って隠れていた男が鶏の声を聞いて、「やっと夜が明けた。助かった!」と扉を開けたらなんと真っ暗。そのまま男の姿はどこかに消えてしまった。もぬけのからの部屋には、男の髪の毛の先の部分だけが軒下にぶら下がっていた。文字で書いてあるだけなのに、この場面が映像で浮かぶんですよ。

滝本 怖いですね。バラバラ死体になってたり、あたり一面血みどろの海だったっていうより断然怖い。こういう怖さって日本特有のものかもしれません。アメリカのホラーならスティーブン・キングがいますが、彼の作品は読みますか? 『シャイニング』とか。

岩井 『シャイニング』、あれは映画が怖いですね! あの映画で怖いところってふたごの女の子とか主人公夫婦の顔とか(笑)、いろいろあるんですが、自分的に一番ツボなところは、バーテンダーと向き合ってひとりで飲んでいたはずなのに、気がつくとパーティ会場になってるというシーン。ひとりだと思ったら人が大勢いた、というのと大勢の人といると思ってたらいつのまにかひとりだった、というのと両方怖いな、と。でも、自分的には前者のほうが怖いです。

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