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無駄のない段取りの秘密、
ケータリング料理人の台所

たくさんの品数と量を一気に作り上げる、ケータリング料理人の仕事は見どころ満載。限られたスペースでも使いやすい台所とは?

右から、調味料と皿の棚、コンロ、シンクとその上に洗って掛けてお ける道具類、冷蔵庫の上に洗い物を置く水切り。鍋に味つけする時も道具を洗いながら使うにも効率よい配置。手前の食卓は作業台に。

右から、調味料と皿の棚、コンロ、シンクとその上に洗って掛けてお
ける道具類、冷蔵庫の上に洗い物を置く水切り。鍋に味つけする時も道具を洗いながら使うにも効率よい配置。手前の食卓は作業台に。

ある時は東京で開催するブランドの展示会、ある時は金沢在住の作家の個展のレセプションなど、全国各地から依頼されて料理を作ったり届けたり。一度に30~40人前を用意するのも当たり前という「旅する」料理人の中西なちおさん。穀物と野菜を中心にした素朴で体がしみじみおいしいと感じるごちそうが人気です。

「チームだと誤解されることもよくありますが、作っているのは私ひとりなんです。どこへ行くにも夫が運転する車で移動しています。調理道具や食器などをぎゅうぎゅうに積みこんで」 依頼先の事務所の小さな台所で料理することも多々。宿泊費も限りがあるので、常に時間とスペースとの闘い。

効率よくないとやっていけない。そんな中西さんの手際を見せてもらいに、高知にある自宅の台所におじゃました。

窓際の食器棚の上には、サイズ違いのまな板や米などが。

窓際の食器棚の上には、サイズ違いのまな板や米などが。


 コンロのすぐ右の棚に調味料、シンクの上にフックに掛けた道具類、シンクの左に水切り。この配置は東京にあるアトリエでも変わらないという。調味はコンロの上の鍋ですることが多いし、ザルなどの道具は洗ってすぐに掛けられて料理中に気が散らない。コンロの下には油や乾物、シンクの下にはボウルやフライパンを収納。天井に近い棚には、頻度の高い行平を中央寄りに、鍋類を並べて。中西さんの動線が目に浮かぶような見事なシステム。

「洗った鍋や食器は水切りにサッと置き、溜まってきたらホウロウのバットにまとめて床で乾燥させることも。バットは多めにあると便利ですよ」

窓際の床にあるバケツは、芋などの食材保存や、野菜の皮をむく時などに生ゴミ受けとして使う。水場に落とさないので余計な水分を吸わずに済む。

テーブルの天板は、製材所で切り出してもらった杉製。台にしたのは米軍のコンテナで、棚を作る工具や食品保存のビニール袋など、収納力抜群です。

米軍の払い下げ品のコンテナを白く塗り、テーブルの土台に。

米軍の払い下げ品のコンテナを白く塗り、テーブルの土台に。


 

本日の弁当。玄米の上に、じゃこ、鮭、梅干、蕪の漬物が。豪華!

本日の弁当。玄米の上に、じゃこ、鮭、梅干、蕪の漬物が。豪華!


人参と明太子のきんぴら、里芋の揚げ炊き、卵焼き、沖サワラのフライ、インゲン、オクラ、スナップえんどうなどなど。朝市で買ってきた新鮮な食材をたっぷり詰め込んだ「トラネコボンボン」のお弁当は、玄米ごはんが見えないほど。これだけの品数を、3時間弱で作り上げました。

 手際のよさの秘訣は、まず服装。仕事の時はエプロンをして、室内でもコンバースのスニーカーを履きます。

「これにキャップを被ると、『さあ、仕事だ!』とスイッチが入る定番スタイル。なにしろスリッパをバタバタさせていると、すごく疲れるんですよ」

そして、同じ作業をまとめて済ますこと。人参を切るのも、全部の根元をカット→全部の皮をむく→全部を千切りという具合。バットやボウルを並べて、置き場所を確保するのも大事。とくに目についたのは木製のバットです。

「木工作家の三谷龍二さんが作ったものです。最近ホウロウのバットが重く感じて、これがとても役立っています」

煮干しや米の保存瓶の蓋が、普通の皿だったのも見逃せません。

「そのほうがサッと開け閉めしやすく、上にちょい置きもできて便利だから」

棚の上の圧力鍋を、慣れた仕草でひょいと取って。

棚の上の圧力鍋を、慣れた仕草でひょいと取って。


手順の確かさも見事。コンロは2口だけだから、滞りなく進めるために、道具の配置から、料理を作る順番までかなり頭を使っているはず。

「この仕事は、体力、気力、腎臓も強くないとできません。早朝や深夜など、依頼の時間に合わせて仕事をすることになるし、実際、超ハードなんですよ」

小さな体は迷いなくテキパキと動く。まったく手抜きをすることなく、ひとつひとつ丁寧に下味をつけたり、仕上がりの彩りも考えながら、「食べた人が元気になってほしい」と料理する中西さん。パン粉だって天然酵母の国内有機小麦粉使用のこだわりの品です。

「料理って生き物だから、手紙と一緒で伝わるから。私は言葉が上手じゃない分、料理で人に気持ちを伝えるのが向いているんだと思います」

高知出身。高校生の頃から料理をして周りにふるまっていました。それが今もずっと続いているようなものだといいます。

オリジナルの包装紙も、取っておきたいかわいさ。

オリジナルの包装紙も、取っておきたいかわいさ。

「ごはんの上にもいろいろおかずをのせる、この品数を多くしたい感じは、皿鉢料理なんじゃないかと思うんです。高知の郷土料理で、宴会などの時に、大皿に揚げ物も煮物も刺身もこれでもかと豪勢に盛って出す。小さい頃からの食の記憶なのだと思います」

 イラストのかわいい包装紙にまずにっこり。蓋を開けると同時にあがる歓声。すぐに食べてもおいしいし、時間が経って全体に落ち着いてからもまた旨い。ごちそうさま、また食べたい!そんな言葉が自然と出てくる、心まであったかくなる弁当なのです。


 

中西なちおさん トラネコボンボン主宰●各地のイベントで料理をふるまう。著書に『旅するレストラン トラネコボンボンのお弁当』(PHP研究所)。来年2月、湘南蔦屋書店で原画展とオリジナル弁当箱の販売が。

『クロワッサン』915号(2015年12月10日号)より

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