くらし

【上野千鶴子さん×小川たまかさん 対談】ジェンダーギャップの現在。

日本は社会的な男女格差の大きな国だ。その不平等に声を上げる二人の女性が、初顔合わせ。現状を語り合います。
  • 撮影・天日恵美子 文・三浦天紗子

私が何十年と言い続けていることにいまさら反響があることに驚きます。(上野さん)

ジェンダーの歴史とか、学校で教えてもらいたかったです。(小川さん)

(右)上野千鶴子さん 東京大学名誉教授、 WAN理事長 (左)小川たまかさん ライター、「Spring」スタッフ

小川たまかさん(以下、小川) 上野先生の東大入学式祝辞を読んでというか、動画を見たとき、優しいお話のしかたも含め、涙が出るほど感動しました。

上野千鶴子さん(以下、上野) あれは反応の男女差がすごかったんです。いちばん好意的に受け止めてくれたのは40代の女性たち。思い当たることがいっぱいあって泣けたと言ってくださった。私にしたら、もう何十年も同じことを言っているし、いまさらこんなあたりまえのことを……と思ったけれど、あれほど反響があったなら、東大が私をあの場に立たせたことは意味があったのかもしれません。

小川 メディアもこぞって取り上げ、SNSでも反応が飛び交いました。

上野 それは私の祝辞だけではなく、まず伊藤詩織さんの告発があって、世界中に広がる#MeToo運動のうねりや、財務事務次官のセクハラ騒動といった流れがあったことも大きいです。東京医科大入試の得点操作に至っては、組織ぐるみの不正なわけで、弁解の余地なしです。それに、あの祝辞の中でも言ったけれど、東大入学者数の女子割合が増えないのは、性差別の問題とつながっているんですよね。

小川 最近、フェミニズムや性暴力に対する世論の盛り上がりがあるように感じています。30年前、40年前にもこういう「機」みたいなものがあったのではないでしょうか。

上野 はい、ありました。’70年代がいちばん盛んでしたね。そのころからウーマンリブ運動をリードしてきた女性たちのドキュメンタリー映画『何を怖れる』というのがあるんですけれど、私も出ていて……。

小川 観ました。すごく良かった!

上野 観てくれたの。ありがとう。あれも、フェミニストたちがみな高齢化したので、認知症になったり死んだりする前に作ろうと。当時は、女性たちの熱気もすごかったし、女性のためのスペースや草の根のグループも次々と生まれてきました。私たちはずっと活動をやめることはなかったけれど、後ろを振り返ったら「あら? 若い人たちが誰もついてきていない」(笑)。それはなぜなのかを、きょうは小川さんと話そうと思っていました。

小川 本当に、いま話題になっているジェンダーギャップの問題などは、社会に出てからではなく、学生時代のうちに勉強しておけば良かったです。

性暴力の無罪判決が 相次ぐことへの違和感。

小川 韓国のフェミニズム小説がベストセラーになったり、その空気も急速に広がっています。でも日本のメディアからは、「日本であまり盛り上がらないのはどうしてでしょう」と聞かれます。内心では、なぜ人ごとみたいに言うのかと不思議です。

上野 私ならもっときっちり反論しますよ。「#MeTooが盛り上がらないというのは、あなたたちメディアが作り上げたディスコース(言説)ではないですか」と言うでしょうね。各地でさまざまな動きがあるのに、それを報道しないのはマスメディアの責任です。

小川 今年の3月には久留米や浜松などで相次いで性暴力事件の無罪判決がありました。一番大きな話題となっている判決は、実の父親による19歳娘への性虐待。名古屋地裁岡崎支部が無罪判決を出した理由は「抗拒(こうきょ)不能とまでは認められない」でした。これについてはどう思われますか。

上野 裁判官は現行法に基づいて判断を下すしかないとはいえ、論理的にまったく意味をなさない判決ばかりで唖然としました。

小川 それについても、SNSでは「現行法で考えれば正しい」「法律も知らない素人が」という法曹関係者の声も大きくて。その法が被害者視点を全く反映していないのでは?という話なのですが。

上野 現行法の欠陥や限界をあぶり出す判決だったと思います。韓国や多くの国はあっという間に性暴力禁止法を制定したのに、日本の行政府や立法府の対応はあまりにも遅れています。

小川 2017年に性犯罪の刑法改正がなされたとはいえ、論点となった9項目のうち改正されたのは3項目と、1項目の一部。まだ課題は多いです。

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