くらし

【上野千鶴子さん×小川たまかさん 対談】ジェンダーギャップの現在。

  • 撮影・天日恵美子 文・三浦天紗子

社会の変化は、変えようという意思がなければ変わらないもの。(上野さん)

上野 夫婦同姓違憲訴訟もやられていますが、それも最高裁判決こそが違憲だと多くの法律家は指摘しています。法律のほうが間違っているのにそれを遵守するというのはどういうことなのかと憤ります。

小川 無罪判決はこれまでもあったことだろうと思います。それがやっと大きく報道されるようになったということの影響はあるのかも。

上野 やはりメディアが問題としてきちんと取り上げるようになってきて、ノーを口にしてもいいという空気に変わってきたからかもしれませんね。性差別動画も、昔だったらスルーされていました。実際に企業の窓口や広報にクレームに行ったこともあるけれど、担当者は「皆様方のご意見は少数派のご意見としておうかがいしておきます」という対応でした。

小川 ひどいですね。

上野 それが最近は、ネットなどで炎上すると、すぐ取り下げるようになった。そこは変わってきたことの一つですね。ただね、それは私たちや小川さんみたいな人が“変えてきた”ことです。小川さんは、Springという支援グループで活動されているし、私もWANという女性のための情報サイトを運営しています。黙っていたら変化は起きません。だから「これから社会はどう変わりますか」と言われるたびに腹が立つ。天気予報じゃあるまいし、自然現象のように変わるわけじゃないんです。あなたは変えたいですか、と問い返します。

小川 本当に。おっしゃるとおりです。

声を上げることを恐れるな。 そうしなければ伝わらない。

上野 ところで、私は小川さんの『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)を読んで、実は愕然としたんです。たとえば163ページに、〈なんて答えたら男性の機嫌を悪くさせないだろうか〉などと書かれてあって、イマドキ女子も忖度をやってるんだと。

小川 そういう方法を無意識に考えてしまう癖はあるかもしれないです。

上野 「怒(おこ)りたい女子会」というグループがあるの。なぜ「〈怒れる〉じゃなくて〈怒りたい〉なの?」と聞いたら「怒りたいのに怒り方がわからないから」と。

小川 そのネーミング、とてもよくわかります。絶妙だなと。

上野 その“わかる”ってところを教えてくれない?

小川 怒っている女はみっともないとか、感情的な女は嫌われるとか、そういう刷り込みがメディアからあったから。怒ることへの抑圧が強かった。

上野 最近、アンガーマネジメントという言葉がもてはやされますが、私は怒りを抑制するより、どう表出するかをまず学べ、だろうと。だって怒るべきことがいっぱいあるんだもの。雑誌『アエラ』の元編集長だった浜田敬子さんの『働く女子と罪悪感』(集英社)という本を読むと、なるほど、女が生活のために働くのは認められても、生きがいややりがいのために働くのは“わがまま”と思われるのだな。そこに、罪悪感を持ってしまうのだな、とわかって切なかったです。浜田さん曰く、自分の職場に働きながら子育てしている女性は何人もいたのに、長い間そのことに気づかなかった。自分を含め、家庭の「気配を消して」働いてきたから見えなかったと。

小川 子どもが小さいうちは子育てを最優先しろとか、そういう意見が年長者から出る。

上野 エリート女性に多いんだけど、ウィークネス・フォビア(弱さ嫌悪)というのがあるの。弱さが自分の中にもあるから見たくない。自分以外の女が、自分は被害者だと言い立てることへも嫌悪がある。

小川 女の強みは弱さを抱える自分を受け入れられること、と上野先生はおっしゃっているのに。

上野 社会がこれだけ変わってきた要因の一つに、女性たちが我慢しなくなったことは大きいと思います。若い女性の受忍限度が下がったから、痴漢や性暴力の告発件数も増えてきた。

小川 痴漢やセクハラが性差別だと指摘しても理解できない人は多い。「女性が好きだから」「魅力的だから」はおかしな言い訳です。

上野 性暴力は女をおとしめるためにやる支配欲の発露であって、性欲の発露ではありません。

小川 2年前に、精神保健福祉士の斉藤章佳(あきよし)さんが、「痴漢行為の根底にあるのは男尊女卑」と書いた『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)という本が出版され、話題になりました。

上野 女好きを公言する男ほど、女をモノにするのが好きなだけで、女性蔑視そのものだと、私は『女ぎらい』(朝日文庫)で指摘したのだけれど。男は性欲にコントロールされているなんて古い性欲神話がまだ通用するなんて……。男女平等感を身体化している若い世代ほど実態との落差を強く感じるから、怒りを感じるボルテージは高まっているはずなのに、その世代の女性は怒ることを怖がっているんですね。

小川 怒ってもしょうがないみたいに思わされてます。

上野 怒りって、表現して初めて怒り。表現されないと伝わらないもの、存在しないものと見なされてしまう。私たちの世代には、「怒る女は美しい」という標語があったんですよ。

小川 いまと全然違う(笑)。私はまだその歴史を少ししか知りません。でもそうやって女性たちが上げてきた声をつないで、これからも発信していきたいと思っています。

怒りをなかなか表に出せないけれど、歴史をつないでいきたい。(小川さん)

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