くらし

【山田ルイ53世のお悩み相談】マナーの悪い人たちのせいで電車通勤が辛いです。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は通勤マナーにいらだつ母からの相談です。
  • 撮影・中島慶子

<お悩み>

神経質つながりのご相談です。
電車通勤がストレスで困っています。
原因は2つ。大股開きで座る男性と、エスカレーター右側を歩く人たち。この2つがどうしても許せなくて、爽やかな朝もムカムカしています。でも注意してトラブルになるのも怖くて、イライラが募るばかりです。どうしてあの人たちは頑なに自分のスタイルを変えないのでしょうか! 職場まで電車以外で行く方法がなく、歩いて行くと私の足では2時間ぐらいかかります。
(mint/42歳、一児の母でフルタイムで働いています)

山田ルイ53世さんの回答

朝夕の電車が混雑する時間帯、エスカレーターの左側に乗るため、本来進みたい方向に背を向け行列の最後尾を目指す度、
「皆が歩いて上らなければ、こんなに並ばなくて済むのに……」
とふと考えます。
人間とは愚かなものです。
周知の事実ですが、「エスカレーターに乗る際は、歩く人のために片側を空ける」というのは、いつの間にか定着した暗黙のマナーであり、正式なルールではありません。
駅構内では、
「エスカレーターは歩かず、手すりを持って乗りましょう」
という文言を目にしますし、昇降機関連の業界団体である、『日本エレベーター協会』のホームページには、
「エスカレーターの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提にしています」
と明記されています。
更に、
「例えば、左手を骨折していて、右手でしか手すりにつかまれない方がいらしたとします。その方はエスカレーターの右側にしか乗れませんが、右あけが慣習となっていたらとても不自由で危険です」
とか、
「すり抜けざまに他の利用者や荷物と接触して、思わぬ事故を引き起こすことがあります」
など具体例を挙げた、注意喚起も。

一応調べてみました。

にもかかわらず……なわけですが、このエスカレーターの片側空け、海外でも同様に蔓延っているらしく、もはや人類全体の問題と言えます。
このグローバルな同調圧力に、あなた一人で対峙するのは無鉄砲。
いつの日か現れるであろう、右側に仁王立ちし一歩も動かない勇者……その登場を待ちましょう。

大股開きで座る男性。
その傍若無人な態度は、まるで、お抱え運転手付きの自家用ベンツ、その後部座席にどっかと陣取る社長のよう。
あるいは、ハーレーに跨るアウトローでしょうか。
いずれにせよ、股の角度はある種のプライドの発露です。
巨大な自尊心を持つ人間が、ベンツでもハーレーでもなく、庶民的な交通手段、電車を利用しなければならない。
彼らが直面している生き辛さ、懐事情は、貴方の比ではありません。
おそらく、あちこちで軋轢を生み、結果、不利益を被っているに違いないのです。
許しましょう。
たとえ、"イライラ"、"ムカムカ"であっても、相談者の心が動いたという意味では、それ即ちエンターテインメントです。
朝から滑稽な大股開きで、娯楽を提供してくれる人達の献身的行為に感謝すべきかもしれません。
何より、満員電車で周囲の迷惑も顧みず大股開きが出来るメンタルは、いつの日か、彼らをエスカレーターの右側に仁王立ちさせるかもしれません。
あたたかく見守り、勇者に育て上げるのも一興です。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
⇒ 公式ブログ

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