芸の披露に欠かせない“地囃子”の魅力を解説。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
前回は落語家が高座に登場するときの音楽、“出囃子”についてお話ししました。その主役である三味線は、その他にも寄席では大活躍するんです。
都内の定席では、落語の他にも漫才、音曲、曲芸、奇術、紙切り等々さまざまな演芸がご覧いただけます。これらの芸を披露しているときに無音だとちょっと淋しかったりします。そのときのBGMとして演奏される音楽、曲名はさまざまですが総称して“地囃子(じばやし)”といいます。この地囃子でそれぞれの芸をより盛り上げてゆくのです。その最たるものは紙切りです。この紙切りは何も描かれていない一枚の白い紙を、鋏一丁でお客様の注文した形に切り上げる芸です。その注文はどんなものが出るのかは分かりません。
言われたその場で形を思い浮かべ、それを実際切り抜いてしまうのは人間業とは思えません。神業(かみわざ)ならぬ“紙”業……。と、紙切りの名人・先代林家正楽師匠はよく言ってました。そのお客様の注文に合わせた曲を、三味線のお師匠さんはとっさに思い浮かべ、すぐに弾き始めます。楽屋で聞くたびに「見事だなあ」と舌を巻いております。
落語が演じられている途中に効果音として三味線(太鼓や笛も)が奏される、これを“ハメモノ”と申します。上方落語は多くの噺にハメモノが入り、とても華やかで色気があります。東京はハメモノの入る噺は少ないものの、これまた大事なもの。セリフをきっかけに演奏が始まるんですが、私は決められたセリフをちゃんと言うのが苦手なんです。しくじって音が鳴らないと大パニック。“落語日和”どころじゃありません。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』991号より
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