長く東京・武蔵野市に住むイラストレーターのキン・シオタニさん。若い頃に始めた井の頭公園でのポストカードの路上販売が話題となり、幅広く表現活動を続けるキンさんにとって、武蔵野や吉祥寺の街の存在は特別なもの。地元書店でグッズ販売を行い、商店街にはキンさんがイラストを手掛けたフラッグが並ぶ。《むさしのレールエール》のイラストを担当するようになったのも、そうした流れからである。
「これを造っている26Kブルワリーの見木久夫さんは地元の広告代理店の方で、地域活性化の一環でいちからビール造りを始めたんです。武蔵野市は井戸水と上水道の比率が8:2という水の豊かな街で、それを仕込み水に使うのはもちろん、醸造所がJR中央線の高架下にあって、しかも中央線をイメージした色合いのエールビールを造るという。ラベルのイラストを依頼されてパッと頭に浮かんだのは高架線を走る中央線の姿でした」
キンさん自身も、独特のフルーティーな味が気に入っている。
「僕は自分を“旅する絵描き”と称しておりますが、パッケージを描いた商品が全国のいろんな人の手に渡ることが本当に楽しいんですよ。もちろん、手みやげとして持っていく機会も多いです。友人の家にお呼ばれしたときなど、こういうのって絶対盛り上がるんですよね」
手みやげに関してはこんな思い出も。
「僕がやっているテレビの旅番組で、とあるパン屋さんのアンパンを絶賛したところ、オンエア直後に開いた個展でそのアンパンを持ってくるお客さんが続出したんです。その数、実に78個(笑)。もちろん皆さんの気持ちはうれしかったんですけど、自分だけでは食べ切れなくて……。その日以来、自分が手みやげを持っていくときは、日持ちのしないものは避けよう、と心に誓いました」