1978年1月号は、新年号にふさわしく着物の話題が続きます。そのなかで異彩を放っているのが、1659(万治2)年に創業し、1989(平成元)年に惜しまれながら閉店した足袋の老舗「銀座めうがや(みょうがや)」主人の談話です。
足袋というのは、「足の袋」と書くけれども、ピチッと足にあわないとだめとのこと。昔は一人ひとりの足の形にあわせてつくり、5分も10分もかけて「気合いで履いてもらう」ものだったと語ります。
しかし戦後、着物の着方がわからない人が増え、長い時間をかけて履くものだといっても通用しない。かといって、ゆるゆるではシワができて格好悪い。そこで、めうがやでは楽に履けて、小鉤(こはぜ)をはめるとキュッとしまる既製の足袋を開発。名言にあるように、足の形はみんな違うのに、既製品は決まったサイズに落とし込まなければいけません。サイズを決めるのにひときわ苦労したことが、その口ぶりからうかがえます。
江戸時代から変化の波を受けながらも、受け継がれてきた職人技。ひいき客には、意外な人もいました。そのひとりが、フランスの詩人ジャン・コクトーです。
来日した際、堀口大學や東郷青児らに連れられて店を訪問。コクトーはその履き心地をいたく気に入り、以来、亡くなるまでずっとつくって送っていたといいます。確かな仕事を続けてきた老舗ならではの歴史の証言が、見開きの記事にひっそりと残されていました。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。