くらし

一口に足っていったって寸法はかってみると、鼻の形が違うように、みんな違うのよ――荒井義雄(「めうがや」主人)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、江戸から続く老舗足袋屋の主人の語りに耳を傾けてみましょう。
  • 文・澁川祐子
1978年1月号「めうがや『足袋の話』」より

一口に足っていったって寸法はかってみると、鼻の形が違うように、みんな違うのよ――荒井義雄(「めうがや」主人)

1978年1月号は、新年号にふさわしく着物の話題が続きます。そのなかで異彩を放っているのが、1659(万治2)年に創業し、1989(平成元)年に惜しまれながら閉店した足袋の老舗「銀座めうがや(みょうがや)」主人の談話です。

足袋というのは、「足の袋」と書くけれども、ピチッと足にあわないとだめとのこと。昔は一人ひとりの足の形にあわせてつくり、5分も10分もかけて「気合いで履いてもらう」ものだったと語ります。

しかし戦後、着物の着方がわからない人が増え、長い時間をかけて履くものだといっても通用しない。かといって、ゆるゆるではシワができて格好悪い。そこで、めうがやでは楽に履けて、小鉤(こはぜ)をはめるとキュッとしまる既製の足袋を開発。名言にあるように、足の形はみんな違うのに、既製品は決まったサイズに落とし込まなければいけません。サイズを決めるのにひときわ苦労したことが、その口ぶりからうかがえます。

江戸時代から変化の波を受けながらも、受け継がれてきた職人技。ひいき客には、意外な人もいました。そのひとりが、フランスの詩人ジャン・コクトーです。

来日した際、堀口大學や東郷青児らに連れられて店を訪問。コクトーはその履き心地をいたく気に入り、以来、亡くなるまでずっとつくって送っていたといいます。確かな仕事を続けてきた老舗ならではの歴史の証言が、見開きの記事にひっそりと残されていました。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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