オランダ風俗画家の中でフェルメールだけがずば抜けて秀でていた、というわけではない。むしろ、
「絵で物語を語るというストーリーテリング的な部分はあまりありません。ある意味でそっけなく、登場人物が笑っている絵も数点しかない。そういう感情表現があまりされない絵で際立ってくるのが、色や光の描写、人物をどこに置くかという構図なんです」
まず、色づかいで特徴的なのがラピスラズリの青。中東原産の宝石が原料のこの絵の具は大変高価。
「中世のキリスト教絵画の聖母マリアの青い衣に、この絵の具が使われていました。そういう高価な絵の具を風俗画に使うことはあまりありません。なにより原価計算に合いませんし(笑)」
さらに、こぼれだす雫のような光の描写。
「ポワンティリスムという点描主義と呼ばれる技法が19世紀に見られます。ですが、17世紀オランダには存在していません。フェルメールが何を見て思いついたのか、これは一種のミステリーですね」
そして、絶妙な人物の構図。
「絵の中の人が増えるほど、ゲームをしたりという人間関係がテーマになってきます。フェルメールの室内画は1人か2人がほとんどで、人間関係の手がかりが少なく、人物の存在が目立つことになる。だから構図が非常に重要。ここしかない、という場所に人物が配置されているんです」