吉田さんがマーク・ボイルさんの著書で知り、身近なものとして実感した「贈与経済」。例えばこの南房総では、どんなことが行われているのだろう。先ほどの〝婦人会〟のランチの場でご相伴にあずかりつつ、聞いてみた。
おすそわけって、ふだんどんなふうにしているんですか? そう尋ねると、「日常茶飯事ですよ」と、米作りのベテラン、志村さんが即答。「美容院に行ったら、帰りに『家人が釣ったんだ』と魚をいただいたり。回覧板を回しにいくと、『ちょっと待って、これ持っていって』と野菜が差し出されたり」
自宅に10年ほど前から薪ストーブを導入したという鶏卵農家の渡邊さんは、こんなエピソードを教えてくれた。
「薪のために、近所のミカン畑で出る枝をもらっていたんです。そうしたらある朝、玄関先に薪になった枝がどん、と積んであって。ミカン農家の方が置いていってくださったんです。昔話の『かさじぞう』みたいですよね(笑)。驚いたけど、ありがたかったです。もちろんお礼は卵で」
大家さんに家賃を届けにいくと野菜をたくさんいただいて帰ることも多いという美術作家の坂本さんは、
「夫と2人で食べきれないときは、さらに吉田さんにおすそわけを。新鮮なうちに賞味しないともったいなくて」
先日そのルートで吉田家にやってきたカリフラワーは、いま、ピクルスとなってテーブルにのっている。
聞いてみると、この日テーブルに並んでいたすべての料理に、何かしらの分かち合い、おすそわけのストーリーがあるのだった。