くらし

『最後の浮世絵師 月岡芳年』著者、平松 洋さんインタビュー。浮世絵の完成者たる芳年、その実像とは。

ひらまつ・ひろし●1962年、岡山生まれ。展覧会の企画・運営やプランニングとともに執筆活動を行う。早稲田大学エクステンションセンターなどで講師も務める。著書に、『名画絶世の美女130人』『「天使」の名画』『クリムト 官能の世界へ』など。

撮影・大嶋千尋

三島由紀夫が「飽くなき血の嗜慾」と呼び、江戸川乱歩が「残虐への郷愁」と評して偏愛した、月岡芳年。残虐な場面を生々しくも美しく描いた“血みどろ絵”で知られる、江戸から明治にかけ活躍した異才の浮世絵師である。その名を冠した特別展は人気を博し、今も多くの人々を惹き付ける。

その生涯や画業について、最新の研究を踏まえ、丹念に迫ったのが、平松洋さんの手になる本書。数多くの図版とともに、年代を追って芳年の姿をたどっていく楽しみが一冊に詰まっている。

「私も最初は『英名二十八衆句』(えいめいにじゅうはっしゅうく)をはじめとした“血みどろ絵”から興味を惹かれて。ところが、調べてみると、芳年が“血みどろ絵”を描いた期間は短く、こうした見方が’70年代以降のものだとわかりました。実は、妖怪画や美人画にも秀でていることを知り、その魅力に引き込まれていったのです」

浮世絵の評価もそうだが、人柄についても、今まで喧伝されていた様とは違っていたという。

「一時筆を置き、描けなくなったことなどもあり、これまでは腺病質、神経質という見方をされることが多かった。けれど、新たに資料を読んでいくと、実は師匠の国芳と同様に賑やかなことが大好きで、お祭りには多くの弟子を連れて出かけていたといいます。私のイメージは、中尾彬さんや江守徹さん。若い頃すらっとした美男子だったのが、年齢を重ねて貫禄が出て。後輩にも優しい親分気質で、芸術にも造詣が深い。そんな人格だったのではと思っています」

多くの作品の中から最も印象的な一枚として平松さんがあげてくれたのは、『藤原保昌月下弄笛図』(ふじわらのやすまさげっかろうてきず)。武勇に優れた藤原保昌を狙う盗賊の袴垂(はかまだれ)が、隙あらばと跡をつけるが、笛を吹きながら泰然と歩く保昌の気に押され襲いかかれずにいる瞬間が描かれている。

「元は肉筆画で、明治15年の内国絵画共進会に出品され、翌年に大判三枚続として刊行された錦絵です。後にこの場面を元にした芝居が新富座で上演されるなど、一大ブームになりました。何といっても保昌を中心にした、月と袴垂との関係性がすごい。静謐で緊迫したなかに風や雲が流れ、笛の音まで聞こえてきそう。芳年の構成力たるや、と感じさせる作品です」

奇しくも明治150年となる今、再び時代が大きく変わろうとしている中での芳年リバイバル。画業とともにその生き方を振り返るのに、まさにうってつけの入門書となっている。

角川新書 1,100円

『クロワッサン』973号より

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