引田かおりさん、ターセンさん夫妻の新しい住まい。【後編】
影・三東サイ 文・後藤真子
スペースにも気持ちにも、 先の変化を楽しめる余白を。
引田さんの住まいづくりで印象的なのは、「家はパーツが大事」という考え方と、前述の階段しかり、不要なものは引き算する思い切り。
たとえば、閉めると壁面に大きな面積を占めるカーテンは、「部屋の印象を左右するので、とても重要」と吟味して選ぶ。一方で、新居のシステムキッチンにオーブンと食洗機はつけなかった。
「昔はお菓子づくりをしたけれど、いまは食べたいときにおいしいものを買ってきます」。
食器は、作家ものの陶器やガラス、漆器が多いため、食洗機はあってもあまり使わない。それらを引き算した分、スペースに余裕が生まれ、きれいに物が収められる。家づくりでは、つい、あれもこれもあれば安心と足す方向で考えがち。けれども、不要なものに場所や手間を「取られない」ことも、快く暮らす上では大切だ。住まいの完成形を急がずに、「必要になったら足せばいい」そんな気持ちで、変化を受け入れられる「余白」をつくる。それが、住まいを快適にする秘訣かもしれない。2階は現状、用途を決めない余白の空間になっている。間に2階があることで、3階の娘世帯とは音による干渉がほとんどなく、互いにプライバシーが守られている。もちろん、今年生まれた孫の然くんをしばしば預かり、娘の子育てをバックアップすることもあれば、たまに二世帯5人で食卓を囲み団らんすることも。適度な距離で、二世帯住宅の醍醐味を味わっている。
舞さんの夫の善雄さんは、「義父から、『もう自分たちは先が見えているはずだったのに、君たちが来たおかげでいい意味で人生がわからなくなった』と言われ、うれしかったです」と語る。
「まだまだ、住まいも暮らしも変化していきそう」とかおりさん。この先も予想できない変化を楽しんでいくつもりーーその笑顔は溌溂と輝いていた。
生け垣の緑で、外の視界を自然に避ける。
LDKの窓の外では、半落葉~常緑低木のプリペットの生け垣が、繊細で美しい枝葉で周囲との視線の交差をやんわりと遮っている。「まだこれから成長し、枝と葉が増える予定です」
ウールの薄手のカーテン1まいで軽やかに。
外には生け垣があり「ここで寝るわけじゃないから」とLDKの窓は薄いウールカーテン1枚に。カーテンレールは「世界で最も細い」というスイス製。省スペースでスタイリッシュだ。
寝室の壁の一面はガラスと木のストライプ。
玄関のアプローチの側面にあたる寝室の壁は、もとは鍼灸院の入り口だったところ。「家の顔になる部分なので」と熟考の結果、ストライプ状のガラス壁に。遮光はロールスクリーンで。
季節の衣類だけのウォークインクローゼット。
寝室直通のウォークインクローゼットは、その季節に着るものだけを置くスペース。「使いながら変更できるように」と扉はつけずオープンにした。残りの衣類は奥の部屋の収納庫に。
娘一家の3階は、まったく異なる住空間。
玄関も居室も1階とは分離しているため、同じマンション内の別の住戸のような感じ。内装もまったく異なる。舞さん宅は日本のレトロな家具等を使って善雄さんが手づくりしている。
浴室やトイレも、大きな開口部でふだんに採光。
ユーティリティスペースや洗面台と一緒の家族用トイレ、その奥の浴室にも大きな窓がある。洗面ボウルと浴槽はイタリア製の白の陶器をセレクト。
『クロワッサン』937号より
●引田かおりさん、ターセンさん/『ギャラリー・フェブ』『ダンディゾン』オーナー東京・吉祥寺でギャラリーとパン屋を経営。元専業主婦のかおりさん、会社を早期リタイアした保さん(ターセンさん)は夫婦で活動、その美しい暮らし方も注目されている。共著に『しあわせな二人』(KADOKAWA)。今年6月より長女一家との新生活がスタート。
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