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【ポケットからごほうび #3】二重の固結び──西田尚美さんの心を動かす日々の出来事

うれしくなったり、しょんぼりしたり、西田さんの心を動かす日々の出来事。

文・西田尚美 イラストレーション・qp

【ポケットからごほうび #3】二重の固結び──西田尚美さんの心を動かす日々の出来事

二重の固結び

靴ひもを結ぶ仕草というのは、なんとまあ愛おしいんだろう。娘が小さい頃、何度も靴ひもを結んであげたけど、靴ひもの種類によってはツルツル滑ってすぐにほどけてしまう。子どもはそれを踏んで転ぶので結び直した後、結局ほどけないように二重に固結びしていた。

私は子どもの頃、靴ひもがほどけたとき親に結わってもらっていただろうか、全然憶えていない。ほどけた靴ひもを踏んづけて転んで泣いたことはある。自分で一生懸命もう一度結び直すけど、縦結びになってしまって「なんか違う……」と違和感を覚えたこともあるが、いつのまにかコツを掴んでちゃんと結べるようになっている不思議。今だにどうしても縦結びになってしまう友人もいるけど、親御さんが結ぶのが上手で靴ひもがほどけなかったのかもしれない。

先日、おろしたてのスニーカーを履いて娘と買い物した帰り道、スニーカーの靴ひもがいつのまにかほどけてしまった。両手に買い物袋を持っていた私は靴ひもを踏んづけて転んだ記憶がよみがえり、踏まないように気をつけながらハラハラと歩いていたら、娘が「結んであげるから止まって」と言って、ささっとしゃがんで靴ひもを結んでくれた。しかも正しく。そして二重に固結びまで。その姿の尊さったら……。ちょっと泣いてしまいそうになった。私は感動して「ありがとう」を何回も言った。「いいよ。ママ、危なっかしいんだもん」。私が転ぶ姿を想像したのだろうか……。あんなに小さかった娘がいつのまにか成長して、人の為に、それも私の為に、動いてくれたことがこんなにもうれしいとは。

あの日、娘に結んでもらったスニーカーがこちら。さすが二重の固結び、まだほどけておりません
あの日、娘に結んでもらったスニーカーがこちら。さすが二重の固結び、まだほどけておりません

再び二人で歩きはじめたら不意に、「サムシング」というジーンズの古いCMが頭に流れてきた。そのCMはパリジェンヌみたいな女の子が颯爽と歩いていて、たしか「サムシングは女の子のジーンズです」ってコピーだったと思う。当時すごくオシャレであのCMで流れるフレンチポップの曲が大好きだった。なんでいきなりあのCMを思い出したんだろう?買い物袋を両手に持った私は、あの曲を脳内再生しつつ颯爽と帰宅するやいなや、CMをYouTubeで探して見た。階段でしゃがみ、靴を新聞でササッと拭くカットがあり、それが靴ひもを結ぶ姿と重なったのかと納得した。娘がどんどん私の手を離れ自立していくことがうれしいのと寂しいのと。最近は接し方や距離感も考える日々。自分があの年頃の時って、どんな気持ちだったのだろう?

遠い昔の記憶に思いを馳せる。

【ポケットからごほうび #3】二重の固結び──西田尚美さんの心を動かす日々の出来事
  • 西田尚美 さん (にしだ・なおみ)

    1970年、広島県生まれ。舞台『ブランク』(東京・本多劇場)、ドラマ『私があなたといる理由2』(テレビ東京系)に出演中。インスタグラム@naomi_nishida_official

『クロワッサン』1175号より

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