迷わない、混乱しない、疲れない──認知症の人も、安心できる空間の作り方
イラストレーション・牧角春那 文・西山美紀 協力・神原サリー(家電セレクト)
家族が認知症になると、「介護しなければ」と肩に力が入りがち。まずはできることを保ち、自分らしく暮らせる環境を考えたい。
「特に、変化が出始めた初期から、環境を整えることが大切です。それが本人の安心感につながり、不安や混乱を減らして、できることを続けやすくします」と、認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子さんは言う。
「本人は、これまで暮らしをつくってきた主人公。何が不自由になってきて、どうしたいのかを聞きながら、一緒に環境をつくっていきましょう。例えば、時間や場所がわかりにくくなってきたら、目につく場所に予定を示す。夜に廊下が暗くて不安なら、足元を照らす明かりを取り入れる。洋服が多くて選ぶのに疲れてしまうなら、よく着るものを見つけやすくする。こうした工夫で記憶や認識を補い、不安を減らし、自分のペースでできることを支えられます」
一方で、「危ないから」「忘れるから」と家族が先まわりして、モノを処分し、行動を制限すると、本人の不安や怒りにつながりがち。「原則として、本人抜きでは環境を変えないこと。『どちらが使いやすい?』『どうしたら楽に過ごせる?』と本人に聞き、選べる余地を残しましょう。『転ぶと危ないから』ではなく、『転ばずにスムーズに動いて、元気でいたいよね』と、“こうありたい姿”を伝えることも大切。自分のことをきちんと聞いてもらえる安心感は大きな支えになります。好きな色や音、香り、触り心地、光の明るさなど、五感の好みにも目を向けて、『好き』『落ち着く』『これなら自分でできる』を手がかりに、一緒に心地いい空間にしていきましょう」
見えるところに「情報ボード」。これが「安心基地」になる
夜寝る前に「明日は何の予定があったっけ?」、朝起きて「今日は何をするんだっけ?」と、予定がわからないと不安になる。
「一日、または週の予定をボードに大きく書きだして、目立つところに貼っておきましょう。『10時に出かけるなら、朝ごはんはゆっくり食べて大丈夫』などと目安がわかってホッとします。わからなくなったらそのボードに戻ればいい、『安心基地』になります」
デジタルフォトフレームで好きなものや懐かしいものを
写真など、眺めると元気になり、ホッとするものを飾るのも一案。
「孫や家族、友人、昔の旅行の写真をスライドショーで流せるデジタルフォトフレームもいいです。遠隔で写真をフォトフレームに送れる機能があるものもあり、遠くに住む家族も身近に感じられますね。好きなものや懐かしいものを見ると、自分自身を取り戻す感覚になるもの。不安が和らぎ、『脳が喜ぶ』という利用者の声も」
グリーンを眺めて世話ができる環境づくり
庭やベランダに、植物など、育てられるものを取り入れてみて。
「植物を眺めたり、世話をしたりすることは、疲れた脳を休める効果が期待できます。さらに、窓辺に椅子を置き、外を眺めてぼんやり過ごすのもおすすめ。外に出られない日も、窓から人や景色を眺めるだけで、気持ちを外に向けられます。家族も隣で一緒にのんびりするなど、心と体をリラックスさせる時間をつくりたいですね」
キッチンは安全に。本人の「やりたい」を大切に
認知症になっても、台所に立ちつづけたい人は少なくないそう。
「『危ないから』と止めずに、どうすれば安心して続けられるかを一緒に考えましょう。火を使うなら、IHコンロなど安全な機器の検討も。ただし、長年ガスコンロを使ってきた場合はIHに切り替えるのが難しいこともあるため、燃えにくい防火エプロンを使うのもおすすめ。本人のやりやすい方法を相談して進めましょう」
床や壁の模様はシンプルな無地がベター
床材やカーペットなどの濃淡や濃い模様が、“段差”や“穴”に見えてくることがあるのだそう。
「床が平面に見えないと、足がすくんで歩けなくなってしまう場合も。また、細かい模様が“虫”に見えて怖く感じる人もいます。もし、本人の不安があるようなら、どういうものがよいか相談しながら、無地のカーペットに替えたり、気になる模様が見えないように隠したりという工夫を」
モノ多すぎはNG。使うものを絞って迷わない空間に
モノが増えると、混乱のもとに。
「多すぎるモノを前にして、何を使えばいいか迷ったり、混乱したりします。調味料やシャンプー類は、本人と相談しながら必要なものだけに絞りましょう。洗剤など、飲み物と間違えそうなものは、目につかない場所に置くのも手です。“砂糖”“塩”“洗剤”などと、わかりにくいものにはラベルを。見ただけで何がどこにあり、どう使うかがわかるようにしましょう」
人感センサーの照明で夜中の「誘導灯」にも
夜中にトイレに行くときは、足元を照らす明かりがあると安心。
「人感センサー付きなら、必要なときだけ点灯し、トイレまでの『誘導灯』としても役立ちます。高齢になると、認知症に限らず転倒しやすくなるので、足元の明かりは大切です。ただ、暗いのが怖い人、突然明かりがつくのが苦手な人など好みはさまざま。全体を明るくしたほうが安心な人もいます。心地よく動ける方法を選んで」
「今日は何日? 何曜日?」を自分で確認できるデジタル時計
時間だけでなく、曜日も確認できる時計を取り入れる方法も。
「時間、日付、曜日が表示されるデジタル時計が便利。リビングやベッドサイドなど、本人の目線に合う場所に置くと、『今日は何曜日?』『ゴミ出しの日は?』と家族に聞かずに確認できます。自分で確かめて行動する習慣が、できることを保つ支えに。使い慣れたアナログ時計があれば残し、デジタル時計を加えるのもいいですね」
寝室にはリラックスアイテム。癒やしに満ちた空間を。
特に認知症初期は、ストレスによる睡眠リズムの乱れに注意。
「認知機能が落ちると、日中のストレスが増え、脳が疲れてうまく眠れないことも。ぐっすり眠れるような癒やしの寝室にするため、好みのアロマや手触りのよいクッション、心地いい音楽やラジオなどを取り入れてみて。嗅覚が保たれている場合は、好きな香りのポプリなどを取り入れると、自分を取り戻し、安心やストレス緩和に」
翌日の「洋服セット」を着る順に見える場所に置く
洋服が多すぎると、選ぶだけで疲れてしまうことに注意。
「服は普段着るものだけを残して整理を。その上で、翌日着る服はしまわずにハンガーラックなど、見えるようにかけておくのがおすすめ。さらに着る順番にセットすると、何をどう着ればよいか迷いにくくなります。探す手間も減り、朝の支度がスムーズに。自分で身支度しやすい空間をつくることが、安心にもつながります」
玄関の鍵の閉め忘れを防ぐスマートロック機能をプラス
認知症になると、外出時の鍵の閉め忘れが起こることも。
「対策として、IT技術を活用するのも一案です。本人にはシンプルなリモコンキーを使ってもらい、家族は施錠履歴を確認したり、必要に応じて遠隔で管理できたりします。スマートフォンを持って近づくと自動で開くハンズフリーや、オートロックなど、さまざまな機能があるものも。本人が無理なく使える方法を選択して」
玄関には 「持ち物リスト」と「持ち物置き場」を
認知症になると忘れ物が多くなりがち。外出の際の忘れ物を防ぐためにも、玄関を上手に活用。
「靴箱の上やドア横など、出かけるときに目にする場所に、鍵やスマホなどの持ち物リストを。持ち物の定位置も決めておき、点検してから出る習慣をつくりましょう。『私も忘れがちだから一緒に確認しよう』と、家族も自分事として考え、おしゃれな貼り紙にして雰囲気を損なわない工夫を」
人感センサーで忘れ物を確認。「録音型ドアリマインダー」
見守りサービスや便利な家電は、認知症の初期のうちから検討を始めるのがおすすめだそう。
「外出時に『鍵を忘れているよ』と知らせてくれたり、帰宅すると『おかえり』と声をかけたりするものも。こうした機能は、認知症の人だけでなく、家族にとっても便利で安心です。家族が声をかけて確認するのではなく、機能で知らせることで、本人が自分で気づき、行動できる場面を増やせます」
気づいてほしい箇所は色のコントラストをはっきり
認知症になると、空間やモノをとらえにくくなる傾向があるため、身の回りのものが使いにくそうでないかを確認したい。
「階段の段差や、ドアとドアノブ、電気のスイッチと周囲の壁。リモコンの複数のボタンなど、境目がわかりにくくなっていないかを確認しましょう。同系色だと境目が見えにくいこともあるため、目立つ色のテープを貼るなど、色のコントラストをつけるのも有効」
『クロワッサン』1174号より
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