大事な親のお金を守る方法。意思確認ができるうちに対策を
イラストレーション・古谷充子 文・黒澤 彩
認知症になると銀行口座が凍結される、契約ができなくなるといった話を聞いたことはないだろうか? そうしたお金まわりの問題に対応するものとして成年後見制度がある。
「成年後見制度は、大きく分けると法定後見と任意後見の2種類ですが、この両者はまったく異なるコンセプトの制度です」と話すのは、10年以上にわたり後見についての相談を受けてきた宮内康二さん。
「認知症になっても最後まで尊厳を保って生きてもらえるように、家族が後見人になる任意後見契約を結んでおくのがもっとも有効です。まだ親が元気なうちに準備しておくに越したことはありません」
まずは、混同しやすい両制度の違いを理解することから始めよう。
後見人を選べない法定後見
本人、親族、あるいは自治体から裁判所に申し立てをし、弁護士などが後見人となって認知症の人のお金を管理する制度。家族が後見人に任命されるケースは少なく、士業従事者が選任され、資産に応じて月3万〜6万円の報酬を支払い続ける。報酬や介護の方針をめぐって家族とトラブルになる事例もある。
「今年、法改正がありましたが、利用者が悩んでいる点は改善されていません。それどころか、銀行や病院などからも裁判所に申し立てができるようになり、入り口が拡大したという印象です」と宮内さん。後見が不要と判断されれば途中で終了できる旨も改正に盛り込まれたが、実効性に乏しいのではないかとみられている。
「現状では、家族の意向が反映されにくく、問題の多い制度といわざるを得ないでしょう」
転ばぬ先の杖としての任意後見
一方の任意後見は、本人があらかじめ、誰に、何を託すかを指定しておくことができる制度。本人の意思確認ができるうちに契約しておくことで、後に認知症を患ったとしても、その契約が有効になる。
「本人と家族が望むような後見のあり方を実現できるので、親の財産だけではなく尊厳を守る方法としても有効です。後見人がやるべきことはあまり多くなく、家族として当たり前のことの延長にすぎません。忙しい現役世代の子どもが後見人になってもそれほど負担にはならないでしょう」。
後後、家族の事情が変われば解約や再契約もできるなど、自由度の高さも法定後見とは異なるところ。実際に後見をスタートするかどうかは別として、契約を結んでおくこと自体がお守りになる。
子どもが親の後見人になるときの考え方と手続き
きょうだいでの後見パターン
任意後見では子どもが後見人となるケースが多いが、きょうだいがいる場合、誰がやるのか? 平等にできるのか?の検討を。「きょうだいの誰かが代表して後見人になるほかにも、任意後見なら複数人で役割を担うような契約も可能です」
公証役場で契約を結ぶ手順
任意後見は、公証役場で契約することで法的な効力があるものとなる。「公証役場に直接連絡をとって契約書を作成してもらうことで費用が抑えられます。いくつかの公証役場をあたってみるのもいいでしょう」
① 資産の棚卸し
銀行だけでも複数の口座がある人が多いはず。どこの口座にいくらあるのか、証券、保険、土地や不動産、その他の資産も含め、まずは親からの情報開示と共有を。
② 家族での話し合い
施設に入居したら不動産は売却するのか、晩年をどこで過ごすかなど、親の願いをよく聞き、実現するための役割分担を。数カ月〜半年は時間をかけて全員で話し合う。
③ 必要書類を準備
任意後見の契約に必要な公的書類は、戸籍の写し(依頼をする親のものだけ)、住民票、印鑑登録証明書。印鑑登録をしていない人がいたら先にやっておくといい。
④ 公証役場に連絡
公証役場は全国に約300カ所。「日本公証人連合会」のホームページで近くの公証役場を検索。親子で任意後見契約を結びたい旨を伝え、契約書作成を依頼する。
⑤ 契約書の作成
後見契約の契約書にはひな形があり、公証人はそれを基に一般的な項目を盛り込んだ契約書を作成する。個別に記載したいことがあれば整理してリスト化しておく。
⑥ 契約
公証役場で公証人立ち会いのもと、後見を依頼する側の親と、引き受ける側の子ども、全員がその場で契約内容に同意して署名をすれば契約成立。所要時間は30分程度。
費用の目安は?
任意後見の費用は2段階になっている。まずは契約時。「書類作成費と不動産の登記変更などで4万〜5万円が相場です」。いざ後見をスタートすると、後見人とは別に、後見人の仕事をチェックする役割の後見監督人(弁護士など)が選任され、報酬が発生する。「家族である後見人への報酬はなしとする場合が多いようですが、後見監督人の報酬は月1万〜3万円かかります」
後見をいつスタートするか
費用と同様に、制度利用も2段階に分かれる。契約=ただちに後見開始ではないので注意しよう。「任意後見契約を結んだ人のうち、実際に後見開始している人はわずか3%程度。認知症がどんなに進行しても、必要がなければ後見制度の利用を一生しなくてもいいのです。任意後見契約はあくまでも不本意な事態を回避するための『お守り』。契約しておくことに意味があります」
契約書が肝心。どんな内容を盛り込めばいい?
任意後見の契約書には、財産の管理、介護施設の契約、年金や保険の申請など、ひな形に沿った項目を記載する。「基本的な項目のほかに、本人が楽しみにしていることや、今までの人生で大切にしてきたことを尊重するような内容も大切です。月に一度行きつけのサロンでヘアカットをする、年に2回は家族旅行をするといったことも契約書に記載できるので、家族で楽しく話し合ってください」
契約書
① 誰が、誰に?
任意後見は、これを決めておくのが一番の目的。委任者=母親、後見人=長女、などと明確に記載するので、きょうだい間の合意が大切。どちらかが亡くなった時点で契約は終了する。
② 何を?
お金の管理だけでなく介護からスマホの契約まで14分野、40項目以上にわたるが、買い物、病院の付き添いなどは後見契約に含まれない。本人の楽しみについての項目も入れる。
③ どのように?
②の項目を具体的に行うにあたり、細かい条件指定もできる。「家の外壁の修繕は10年ごと。500万円以上かかる場合は売却する」など、将来を見据えた但し書きを加える。
④ いくらで?
家族が後見人になるなら無料で請け負ってもいいが、きょうだいのうち1人が後見人になり負担が偏る場合などは、月1万〜3万円の報酬ありとするケースも。家族で検討を。
⑤ 監督人特約は不要
後見開始後に何か契約をする場合、後見監督人の許可が必要になるという「監督人特約」が記載されていることも。家族が後見人ならこれは不要なので契約書から削除してもらう。
どんな人が任意後見人になっている?
任意後見の契約を結ぶことのメリットは、もしも後見が必要になったとき、信頼する人にお金の管理や契約を託せること。子どもが後見人になるケースが多いが、子どものいない人は親族、友人、士業従事者などに依頼することになるだろう。「年下のご友人にお願いする人もいます。レアなケースですが、元教師の方で、教え子に後見人になってもらった人もいました。必ずしも家族にこだわることはないのかもしれません」
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