『煬帝(ようだい)と少年』千葉ともこ 著──隋の時代の暴君と美声を持つ少年
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
中国史に詳しくない私でも千葉さんの中華エンタメは夢中になる。これまで唐の時代を舞台にした小説を発表してきた著者だが、これはひとつ前の隋の時代の物語。
孤児だった翼は母親代わりの護秋らと楽団を組み、幼い頃から美声を披露していた。8歳となり皇太子の使者からお呼びがかかり都に向かうが、なぜか現地で門前払いされてしまう。そんな折に偶然出会い、彼らを楽団として引き取ったのが、皇太子の弟、楊広だ。
楊広はやがて兄を廃位させて皇帝となる。翼は横暴なこの男に反発をおぼえつつも側近として仕え、彼の事業を見届けていくが……。
楊広はのちに煬帝と呼ばれた実在の皇帝で、暴君として名をはせた人物である。遣隋使が携えた国書にある「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す」という一文に呆れたという、あの人物である。彼には南北に運河を開通させるなどの功績もあるが、人々に過酷な労働を強いたことも事実。その政治の内実や、彼と翼の関係の変化を、テンポのよい場面展開でさまざまな景色を背景に描き出す。翼たちを都に呼んだのは誰で、どんな意図があったのか。その疑問をはじめ、複数の謎も物語を牽引する。没入しました。
『クロワッサン』1173号より
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