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『影犬は時間の約束を破らない』パク・ソルメ 著 斎藤真理子 訳──冬眠する人とそれを見守る人

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『影犬は時間の約束を破らない』パク・ソルメ 著 斎藤真理子 訳 河出書房新社 2,640円
『影犬は時間の約束を破らない』パク・ソルメ 著 斎藤真理子 訳 河出書房新社 2,640円

人々が冬眠するようになった社会。冬眠希望者は申請を出し、医療チェックを受け、薬を飲んでガイドに見守られながら二週間から一カ月ほど眠る。ガイドを務めるには資格が必要で、基本的に冬眠者の隣室で生活して、定期的に様子をチェックするのが仕事だ。

SF的な設定だが、描かれるのは人々の日常。冬眠を希望する人は長期休暇が可能な裕福な人が多いが、なんらかの理由で傷ついていたり、疲弊したりしている人もいる。ガイドは冬眠期間中、常に依頼主のことを気にかけながら、淡々と生活していく。

温陽やソウル、釜山などさまざまな場所が舞台となる。最後の話の舞台は北海道の旭川で、これは日本刊行にあたっての書き下ろしなのだそうだ。

ガイドが過ごす時間がじつにゆったりとした印象で、見守る側も見守られる側も、自分の時間を整え直しているかのようだ。自分はこんなふうにじっくりと胸に去来するものを咀嚼する時間を過ごしていないな、と思った。でも、このどこか浮遊感が漂う文章を読んでいる間は、すごく静かで穏やかな時間を過ごした。欲を言えば、もっと読んでいたかった。それくらい、心地よい作品だった。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1141号より

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