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【承香院さんの五感で楽しむ平安ガイドvol.8】小さくかわいらしくも贅沢な、瑠璃色のガラス壺

平安時代の装束を身にまとい、歌会や花見といった当時の暮らしぶりを実践する姿をSNSで発信し、話題となっている承香院さん。五感で楽しむ平安の暮らしを熱心に探索する承香院さんの連載、第8回目は当時の調度品として愛でられていたであろう、美しい瑠璃の壺を見せてもらいました。

撮影・青木和義 構成&文・中條裕子

平安中期に東大寺に奉納された瑠璃壺とは?

今回、承香院さんが見せてくれたのは、深いコバルトブルーをした、小さく美しいガラスの壺。正倉院に宝物として収められている逸品を再現模造として制作されたものです。

日本ではあまり馴染みのない調度品である〈唾壺(だこ)〉。唾や痰を吐き入れるため、口が広くなっている
日本ではあまり馴染みのない調度品である〈唾壺(だこ)〉。唾や痰を吐き入れるため、口が広くなっている

「紫式部や藤原道長の活躍していた平安中期、平致経(たいらのむねつね)が1021年に東大寺に奉納したとされています。正倉院に納められていたくらいなので、日常使いというよりは大事な儀式の際に、唐物の調度品として置いていたのではないかと思います」

この壺は元々〈唾壺(だこ)〉と呼ばれていたと考えられ、唾(つば)や痰(たん)を吐き入れる容器として大陸から伝来し、奈良・平安時代には貴族たちに調度品として重宝されていたのだそう。唾壺自体は「痰壺」と呼ばれて昭和の頃まで使われてきました。それにしても、当時の大陸ではこのように美しいものを痰壺(たんつぼ)として使っていたとは驚きです。

「一般にはあまり平安時代の人が所有していたイメージはないかもしれませんが、ガラス製品は当時も結構流通していました。もちろん高級品ではありますが。白瑠璃といった、透明なものも伝えられています」

ガラス製品などのインテリア小物類はどんな使われ方をしていたのか?

こうした調度品がどう飾られていたのかがわかる記録も残されています、と承香院さん。平安時代後期に編纂された『類聚雑要抄(るいじゅうざつようしょう)』という文献には、調度品から食事のメニューや配膳、装飾、寝殿の造りまでが記録され、当時の貴族の儀式や暮らしを知る資料となっています。

『類聚雑要抄』は平安貴族の儀式や行事の際の食事や調度、室礼などについて記された、四巻からなる書
『類聚雑要抄』は平安貴族の儀式や行事の際の食事や調度、室礼などについて記された、四巻からなる書

「この資料を元に、調度品を飾る台を作ってみたのです。木材を加工して何回も漆を塗り、蒔絵をして錦も敷き、できるだけ正確に再現してみました。実際に使ってみてわかりましたが、今で言うと小物や化粧品を置くドレッサーのようなものですね。私は眼鏡ケースなんかも置いたりしています(笑)」

この『類聚雑要抄』を見ると、台の上にどんなものが置かれているかがわかります。

「たとえば、今でいう整髪料のような役割をする米の研ぎ汁を入れていた〈泔坏(ゆするつき)〉や、室内に香りを漂わせたり着物によい香りを染ませるための香炉と香炉を覆う〈火取籠(ひとりご)〉が描かれていて、その下には〈唾壺〉も置かれています」

右上に描かれた台の上には〈泔坏〉と〈火取母・火取籠〉が、その下段には〈唾壺〉という表記も見られる
右上に描かれた台の上には〈泔坏〉と〈火取母・火取籠〉が、その下段には〈唾壺〉という表記も見られる

「こうした台は映画のセット用などに造られたものも販売されていますが、化学塗料で塗られたものも多くあります。私は何回も失敗しながら本漆を塗って、蒔絵も施しました。髪を染める際に使う手袋があれば、かぶれたりもしないので漆も怖くありません(その後の別の制作の際に、漆塗りでうっかり腕に漆がついてしまってかぶれましたが(笑))」

平安時代らしさを感じる“かわいい”かたち

丸みを帯びていてかわいらしい形状の壺は、眺めているだけでも気持ちが上がるよう。現代の家のインテリアとしてもすてきです。

「なかなか掃除がしにくいので、私も時々しか出さないのですが、置くときには一輪挿しにして飾っています」

もしかしたら、平安時代の貴族たちもそんなふうに使っていたのかもしれない、と承香院さん。

「古代のガラス製品は、後世のガラス小物の形状ともまた違う風情があるんです。この紺瑠璃壺もコンパクトで、花瓶としてもとてもかわいい。平安時代としてイメージされがちな華やかで豪華というよりは、〈かわいい〉という要素が調度品はじめ、あれこれに入っている印象があります」

実際に手に取ってみると、手のひらに包まれてしまうほどのサイズ感。丸みもあり、かわいらしい雰囲気
実際に手に取ってみると、手のひらに包まれてしまうほどのサイズ感。丸みもあり、かわいらしい雰囲気

「コバルトの顔料を使っているこうした瑠璃は、「唐物」と呼ばれる贅沢品だったと思います。正倉院に収められて宝物にされてしまうくらいなので。1021年に奉納されているということは、藤原道長が亡くなる約6年前。清少納言や紫式部、藤原道長もこのようなものを沢山見ていたと思います」

深いブルーが特徴的な瑠璃(ガラス製品)。小さなビーズにして灯籠を包み込み、淡くブルーに光るという
深いブルーが特徴的な瑠璃(ガラス製品)。小さなビーズにして灯籠を包み込み、淡くブルーに光るという

当時としては非常に贅沢だったコバルトブルーのガラスを使った逸品は、奈良の春日大社にも伝わっているといいます。

「同じくらいの時代、道長の子、藤原頼通が、瑠璃をビーズにして灯籠の周囲を覆った〈瑠璃灯籠〉を春日大社に奉納しています。現存するのは鎌倉時代の奉納とされる瑠璃灯籠で、その復元模造では1基あたりに20,000個ほどものビーズが使われています。火を灯すとキラキラとシャンデリアのように青色に光るんです」

想像するだに幻想的な光景に違いありません。瑠璃灯籠は特別な機会にしかなかなか見ることができないと思いますが、春日大社では、8月の中元万燈籠や2月の節分万燈籠といった特別な神事の際に、回廊などのいくつもの灯籠に実際に火を灯したところが見られるそうなので、一見の価値ありです。

「以前、復元模造された瑠璃灯籠に、実際に光を入れたところを見たことがあるのですが、光を帯びると、一千年前の貴族たちが惹かれた瑠璃色が淡いブルーに変わって煌めくんです。それを私、家で見たくて。いつか実際に造ってみたいと思っていますので、いつか……ですが、できあがりましたらお持ちいたしますね」

神秘的な淡いブルーが光る灯籠、ぜひ身近で見てみたいものです!

  • 承香院 さん (じょうこういん)

    平安文化実践研究家(主に装束)

    平安時代の装束や文化を実践しながら独自に研究を重ね、SNSで発信。その集大成である『あたらしい平安文化の教科書』、『王朝の実像9「装束~平安貴族の衣の復元~」』を刊行。

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