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描くこと書くこと(2)── 一般社団法人 文学フリマ事務局 代表理事・松島梨恵さん×漫画家、イラストレーター・オカヤイヅミさん

本が売れないといわれて久しいが、読んだり書いたりするのを渇望している人たちが集うという「文学フリマ」ってどんな世界?

撮影・黒川ひろみ 文・三浦天紗子

文学フリマは、8都市で開催

現在では、2回の東京開催を含め、大阪、福岡など各地で年に計9回開催される。去る5月4日に東京ビッグサイトで開かれた「文学フリマ東京42」は、出店者数、一般来場者数合わせて1万8,689人と過去最大規模となった。

エントランスの目印として置かれる大看板。この前で記念写真を撮る人も多数
エントランスの目印として置かれる大看板。この前で記念写真を撮る人も多数
売りたい買いたい人の熱気であふれるフロアの様子。開始直後から活気あり
売りたい買いたい人の熱気であふれるフロアの様子。開始直後から活気あり
描くこと書くこと(2)── 一般社団法人 文学フリマ事務局 代表理事・松島梨恵さん×漫画家、イラストレーター・オカヤイヅミさん

「遠征出店も興味があります。小旅行気分でやってみたい」
左:オカヤイヅミ(おかや・いづみ)さん 漫画家、イラストレーター。1978年、東京都生まれ。漫画家としての近著『ひとごとごと 1』(KADOKAWA)ほか作品多数。2022年、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。「文学フリマ東京42」では『不定形絵日記 2025』などを販売。

「開催場所で違う独特の空気感。各地域の文学フリマも楽しい」
右:松島梨恵(まつしま・りえ)さん 一般社団法人 文学フリマ事務局 代表理事。1991年生まれ。2010年12月の「文学フリマ」より参加を始め、2014年からスタッフとしても参加。2025年5月の「文学フリマ東京40」より東京代表を務め、同年8月に(一社)文学フリマ事務局代表理事就任。

2002年に始まった「文学フリマ」。本離れ、読書離れといわれる時代に、なぜこんなに“ブンガク”は熱いのか。主催者側、参加者側それぞれの考察から見えてくるものは?

松島梨恵さん(以下、松島) オカヤさんは文学フリマに何度も出店されているんですよね。初出店はいつでしたか。

オカヤイヅミさん(以下、オカヤ) 私は、秋葉原で初開催されたときが最初だったので、2004年だったかな。その後、PiO(大田区産業プラザ)でも何回か出ました。最近は日記中心の個人誌を売っています。

松島 初めてのときもマンガで?

オカヤ そのときは大学のゼミ仲間と出たので、小説の合同誌でした。私は多摩美術大学のグラフィックデザイン科卒なんですが、多摩美では、4年生のとき専攻以外の自由に取れるゼミをひとつ取らなきゃいけなくて、文芸創作のゼミに入ったんですね。青野聰さんという作家さんに教わりました。

松島 実は私も最初、小説を書いて出店しました。確か2010年の12月。そのときもPiOでした。文学フリマは、評論家の大塚英志さんが開催を呼びかけて始まった「文学作品の展示販売会」です。最初の10年ほどはあちこち場所を変えながら拡大してきたんですよね。第一回は、表参道の青山ブックセンターでした。

楽し忙し、当日の出店スタイル イラストレーション・オカヤイヅミ
楽し忙し、当日の出店スタイル イラストレーション・オカヤイヅミ

オカヤ 松島さんから文学フリマの歴史を振り返っていただけますか。

松島 文学フリマ事務局の公式サイトを見ていただくと詳細がありますが、私からざっくりお話ししますと、1990年代末から2000年代初めに、のちに「純文学論争」と呼ばれる論争があったんです。そのとき大塚英志さんが「文学が生き延びる4つの手段」の一つとして、文学も自分で作ったものを自分で売る場を持つべきだという論旨で文学フリマを提案、自ら催したわけです。それを有志が第2回から引き継ぎ、2013年以降、各地域へも拡大していった、となります。

オカヤ 大阪や札幌みたいな大都市ばかりではないのが面白いですよね。岩手や香川などでも開催されていて、単純な人口規模の大きさではない。

松島 開催するには、その都市に「主催します」と挙手してくださる方がいることと、適性や会場などの条件が必要ですね。フランチャイズみたいなのがイメージとしては近いかな。机の配置はこんな感じで、ブースのナンバリングはこうしてみたいに、イベントとしてやることは変えないように運営していますが、各地域ごとに独特の雰囲気があります。京都には京都の、広島には広島の空気というか。

オカヤ 楽しそう。私はまだ東京しか知りませんが、地方の文学フリマにも出てみたいなと思っています。

松島 たぶんオカヤさんや私が出店していた頃は、書くことやそれを本にすることが、“普通の営み”だと思っている人は多くはなかったと思います。文学フリマは、出店者が文学だと思うものは何でも販売できます。「文学フリマ百都市構想」というプロジェクトを掲げて、普通の人が普通に来て普通に本を売ったり買ったりできるオープンな場にしていこうという運営をしています。もちろん、普段書かない人からすると、本を作るということはまだまだ特別なイメージだとは思いますが。

大人に混ざって、小学生や中学生も手作りの冊子を販売。味がある
大人に混ざって、小学生や中学生も手作りの冊子を販売。味がある

オカヤ 同人イベントってなんとなく、参加者みんなで作っている感が全体的にあって、上意下達な感じがないんですよね。

松島 出店料として会場費を出し合って、共同でイベントをやるという意識ですよね。「42」では初めて前日設営を行ったんですが、夜にもかかわらずボランティアさんたちが来てくださったし、そこで互いに意気投合して「明日の朝の設営は何時に来る?」と連絡先を交換し合う方もいらして、青春感があるな、とうれしかったですね。

オカヤ イベント終わりも、出店者は声を掛け合って、率先してテーブルや椅子の片づけをしますしね。

松島 そうなんです。皆さま協力的で、毎回毎回、本当に助かっております。

オカヤ 文化祭をみんなで作り上げている感覚に近いというか、当事者意識がふんわり芽生えるんですよね。ただ、自分たちが売りたくてやっているのは間違いないけれど、たくさん売って利益を出すぞというノリでもないですね。商業出版で流通しているものをただ持ってきて、サイン入れますというだけでは売れないですし。お客さんが求めるのはここでしか買えない新作とかですから。

松島 事務局側もずっと、プロ・アマ問わず出てくださいというスタンスですし、プロの作家さんのブースも増えていますが、そういう意味ではプロの方ほど、SNSで告知したりも含め、戦略を求められるかもしれません。

オカヤ たとえば、パンが好きな人がパンの本を出すにしても、本業の人ならちゃんと取材を申し込んで調べて……となるので、情報の確度とかは絶対に高いけれど、「私はこういうパンが好きなんですよ」という執筆者の熱量がにじむ本に出合えるのがうれしかったり。そういう意味で、無名の人の体験を楽しんで読むのが好き、等身大の自分を発信するのが楽しい、みたいなインタラクティブが成立しているのが文学フリマ。それは一般の商業出版にはありえないことだから、面白いなと思います。

オカヤさんが有志と出店したブースを訪問。お客さんとのちょっとした触れ合いも、文学フリマの楽しみだ
オカヤさんが有志と出店したブースを訪問。お客さんとのちょっとした触れ合いも、文学フリマの楽しみだ
ディスプレイも工夫のしどころ
ディスプレイも工夫のしどころ
オカヤさん著『不定形絵日記2025』
オカヤさん著『不定形絵日記2025』
オカヤさんが有志と出店したブースを訪問。お客さんとのちょっとした触れ合いも、文学フリマの楽しみだ
ディスプレイも工夫のしどころ
オカヤさん著『不定形絵日記2025』

オカヤさん「本という形にしたい、書き手によってその方法はいろいろ」

松島 読み上げたら恥ずかしいかもしれませんが、私、オカヤさんのブースで購入させてもらった『不定形絵日記2025』に書かれた「生活の中のせいぜいささくれ程度のことども」という表現が好きなんですね。

オカヤ ありがとうございます。

松島 拝読させていただいたときに最初に思い出したのは、高野文子さんのマンガ『るきさん』なんです。日常の中のちょっとしたうれしいこと、ちょっとした痛みだったりに共感する。

オカヤ そうですね。そういうのも言えるのが同人誌のいいところだと思います。みんなに絶対わかってもらえるはずと思って出さなくてもいい。日常の実感としてこうなんだという表現に惹かれます。

松島 オカヤさんの作品は、バズろうみたいな感じがしないのも魅力に感じました。

出版社や書店の参加も増加中。「丸善ジュンク堂書店」のブースではコラボ商品など文豪グッズが大人気
出版社や書店の参加も増加中。「丸善ジュンク堂書店」のブースではコラボ商品など文豪グッズが大人気
中村佑介さんのイラスト缶〈浅田飴〉
中村佑介さんのイラスト缶〈浅田飴〉
出版社や書店の参加も増加中。「丸善ジュンク堂書店」のブースではコラボ商品など文豪グッズが大人気
中村佑介さんのイラスト缶〈浅田飴〉

文学フリマは、本好きのための広場。気軽に買ってほしい

オカヤ あと、私は出店する最初の動機が、書きたいよりも「本という形にしたい」だったので、矛盾に聞こえるかもしれませんが、バシッと製本していなければダメというものでもないですよね。

松島 はい。私が見かけてちょっと好きだったのが、8ページくらいのコピーしただけの冊子を出している方がいて、50円なんですよ。表紙に「高い! 50円!」って書いてあって、そういう自意識のせめぎ合いがすごく面白かった(笑)。こういうライトな作品もイベントとしては歓迎です。文学フリマの初めの頃は、評論的な文脈が強く、敷居が高いと思った人もいたかもしれませんが、いまは幅も広がっていますし。共同通信の記者の方が『文学フリマ物語』(ウェッジ)というノンフィクションの書籍を出されていて、私も実はそのゲラを拝読して初めて知ったのですが、短歌の結社やサークルの内側にいる人たちから「文学フリマに出そうよ」と動いてくださったようなんです。

オカヤ 確かに、短歌など詩歌の出店者は増えましたよね。

松島 短歌や俳句は互選する文化ではあるので、有名無名問わず全員がフラットに並ぶ文学フリマともある意味、相性がいいというか。よそのところの新作を一気に買えたりもする。

文学フリマは買い物の準備も楽しい イラストレーション・オカヤイヅミ
文学フリマは買い物の準備も楽しい イラストレーション・オカヤイヅミ

松島さん「文学フリマは本好きのための広場。一期一会の作品を気軽に手に取って」

オカヤ 結社やサークルを超えて開けていけるのはいいですね。最近は日記もその系譜で、気楽に描いて、お互いのを交換する、そういったコミュニティが増えてきたような気がします。私、小学校のころやらされた日記が全然書けなくて。でも、人に話してもどうしようもない雑談も、インターネットに放流すれば誰かが面白がってくれる。それで書けるようになりました。

松島 東京ビッグサイトだと、ブースも4,000くらいあるんです。全部見切れないといわれるのは悩ましいところですが、効率よく偶然の出合いをするには、まとまって置いてある試し読みコーナーを活用して、回る順番を考えるとか。

オカヤ そうですね。事前にある程度は調べておく必要はあると思います。文学フリマのWebカタログはすごく便利ですよ。チェック入れたものだけ一覧で印刷できるので。

松島 文学フリマでは近所のお祭りのように、せっかく足を運んだなら、気になったものを気楽に買ってほしいですね。

個性豊かな出店者たち

参加資格に年齢もなければ、出品するものの制限もない。エンタメ小説や評論、ラノベ、ルポ、旅行記などジャンルは多岐にわたる。ここから商業誌へデビューした書き手もいる。

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『クロワッサン』1168号より

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