アナログレコード(1)──ムード歌謡漫談家・タブレット純さん×作家・甘糟りり子さん
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 撮影協力・バックグラウンズファクトリー 構成・堀越和幸
「ディスコで聴いたレコードジャケ写を必死で覚え、翌日買いに行きました」
右:甘糟りり子(あまかす・りりこ)さん 1964年生まれ。玉川大学卒業後、アパレル会社を経て、文筆業に。『バブル、盆に返らず』『鎌倉だから、おいしい。』など著書多数。
「小学生の頃から昭和歌謡にハマりレコード屋さん通いをしていました」
左:タブレット純(たぶれっと・じゅん)さん 1974年生まれ。2002年、「和田弘とマヒナスターズ」にボーカルで加入。現在はムード歌謡漫談というジャンルで寄席や舞台で活躍中。
初めて手に入れた一枚、ジャケットが忘れられない一枚……。あなたにはどんなレコードの思い出がありますか? かたや昭和歌謡、かたやポップスやディスコミュージックと、ジャンルは違いつつもレコードを愛する2人が、とっておきのエピソードや、アナログにしかない魅力を語ってくれます。
タブレット純さん(以下、タブレット) 僕がレコードを買うようになったのは小学校5〜6年生の頃です。といってもその頃流行っていた曲ではなく、中古レコードを買っていました。当時大相撲が好きで、相撲雑誌のバックナンバーを探しに古本屋に通っていたんですが、店の片隅に中古レコードが置いてあったんです。
甘糟りり子さん(以下、甘糟) 初めて買ったのは誰の何というレコードだったんですか?
タブレット 東京ロマンチカの「愛に散りたい」(1968年)です。特にB面の「しのび逢う町」が好きで。いわゆる不倫の歌なんですが、当時はなぜしのび逢うのかもわからないまま、なぜかその世界観にハマっていきました。
甘糟 純さんが生まれる前に出たレコード。小学生にしてはかなり渋好みだったんですね。
タブレット 世代的には僕が小学生の頃までレコードで、中学生の頃からCDにがらっと切り替わっていきました。昭和歌謡のレコードはかなり安売りされていて、子どもの小遣いでも少しは買えたんですよね。見るためだけにお店に行くことも多かったですが。中高生の頃にレコード熱はどんどん高まって、休みの日はほぼ中古レコード屋に行くような日々が続きました。
甘糟 ずっと、昭和歌謡一辺倒だったんですか?
タブレット 小学生の頃、すでにフォーク、グループサウンズ(GS)、ムードコーラスを網羅していました。その頃AMラジオを聴くのも好きで、玉置宏さんの番組をよく聴いていたんですが、そこで聴いてしびれたのがマヒナスターズです。僕は子どもの頃から運動神経が悪く、精神的にも深海に漂っているクラゲのような感じで。そういう自分にマヒナスターズの音楽がフィットしたんですよね。家で高い声や低い声を出しながら〝一人マヒナスターズ〟なんていって遊んでいました。まさか後年、そのメンバーになるとは夢にも思っていませんでしたけど。
甘糟 私とは聴いてきた音楽のジャンルが全然違いますね。最初に親にねだって買ってもらったのはフィンガー5のレコードだったかな。小学校の頃でした。中学生になってからはバンドものが好きになって、その頃はレコードもお小遣いで買っていたと思います。
タブレット バンドは何がきっかけで好きになったんですか?
甘糟 小中学生の頃、『ぎんざNOW!』(〜1979年)というテレビ番組があって、それが大好きだったんです。夕方の放送に間に合うよう、学校から走って帰ってくるくらい。その番組に1年間ほどレギュラー出演していたレイジーというバンドに夢中になりました。後で知ったんですが、彼らは本来ハードロック志向だったのに、アイドル路線を強いられてつらかったとか。彼らの音楽を楽しんでいた身としては少し申し訳ない気持ちになります。
タブレット GSも全く同じですね。タイガースやスパイダースなど、大体のグループが洋楽志向だったのに、少女漫画のような世界観にされてしまって。こんな格好をしてこんな歌を歌いたくないと思っていたみたいです。
甘糟 その後、洋楽を聴くようになり、親に内緒でディスコに通い出して、ファンクを聴くようになりました。アース・ウィンド・アンド・ファイアーとか、カール・カールトンの『シーズ・ア・バッド・ママ・ジャマ』(1981年)なんかがその頃定番でしたね。
タブレット 本当に、僕とは全く違う路線です。
甘糟 ディスコで気になる曲があると、DJブースに置いてあるジャケットをじっと見て、外見を必死に覚えるんです。翌日、まだ記憶が鮮明なうちにレコード店に行き、同じジャケットを探して買うんですが、家に帰って聴いてみると「これじゃなかった!」という場合も。でもそんなハズレの中にも悪くないなと思うものもあって、それがすごく楽しかったです。
『タブレット純 音楽の黄金時代 レコードガイド』は、ラジオ日本で毎週土曜18時〜放送中の番組を書籍化したもの。
レコードの顔、ジャケットにまつわる思い出もいろいろ
甘糟 レコードは、ジャケットの魅力も大きいですよね。中身がわからないまま、ジャケ買いするのも楽しい。
タブレット 今は目当ての曲をピンポイントで入手できますけど、知らないで買ったレコードの曲がすごくよいと、その日のことも不思議と記憶に残る場合がある。そうなると、曲への思い入れも変わってくる気がしますね。僕の場合、マヒナスターズしかり、好きなレコードのジャケットはおじさんが並んでいることが多くて。おじさんが並んでいるものであれば、とりあえず買うようにしていました。
甘糟 すごいジャケ買い(笑)。ジャケットで忘れられないのは高校時代、カール・カールトンのアルバムを買った時のこと。ジャケットがカール・カールトンの上半身裸の写真なんですよ。それも筋肉隆々の。まだ初心な年頃だったので、それをレジに持っていくのが本当に恥ずかしくて。よく見ないまま、バッとつかんで買ってしまったら、実は違うアーティストのレコードだった。そんな失敗を数回繰り返して、やっと買えた思い出があります。
タブレット 僕も、「こんなおじさんたちのレコードばかり買って、レコード屋の人に変な子だと思われてるんだろうな」と思うと恥ずかしかったですね。
甘糟 昔はレコード店も街にたくさんありましたよね。私の地元の鎌倉にも『楽聖堂』など、何軒かありました。
タブレット 僕がよく行っていたのは当時住んでいた場所からバスで1時間くらいかかる八王子や町田のレコード店です。いつも親に内緒で行っていました。近所にある『忠実屋』というスーパーに行ってくると言って一日帰ってこない、そんなことを繰り返していたのでそのうち親が心配し始めまして。
甘糟 確かに、スーパーに行くにはちょっと長くかかりすぎですものね。
タブレット ある日、親に頼まれた高校生の兄が、僕の後をこっそりつけてきたんですね。八王子のレコード店にいたら、兄が突然現れてびっくりしました。でも「GSの全曲集が欲しくて」と言ったら、「そんなに欲しいんだったら買ってやるよ」と言って買ってくれたんです。近くで開かれていた古本市で大相撲の古い雑誌も買ってくれて。ちょうどその日は雪が降っていたので、今でも雪が降ると、GS全曲集と、雑誌の表紙にあった先代朝潮の写真がよみがえります。
甘糟 いい思い出ですね。私の世代だと、どのレコード店で買っているかでマウントを取り合うこともあって(笑)。たとえば大手レコード店で買うより、青山の骨董通りにある洋楽専門の『パイド・パイパー・ハウス』のほうがおしゃれ、とか。輸入盤を持っているのが格好いいともされていて、大学のキャンパスでも輸入盤のレコードをバンドで束ねてアクセサリーみたいに持っている男の子がいました。
かける手間が多い分、たくさんの物語が生まれる
甘糟 今日はお互いに好きなレコードを持ってきましたが、純さんは全てシングルレコードで、私は全てLP(一枚は12インチシングル)。LPの場合、作り手が物語を編むように考えていると思うので、どういう意図でこの曲順にしたのかと想像するのも楽しい。歌詞カードも好きで、昔は洋楽の歌詞カードで英語の勉強をしたことも。わからない単語があると辞書で引いて、歌詞カードに直接意味を書き込んだり。
タブレット 今もレコードをよく聴くんですか?
甘糟 普段はデジタルで聴く機会のほうが多いんですが、ステレオの前に座ってしっかり音楽を聴きたい時はレコードにすることもあります。亡くなった父が音楽好きで、家に父が残した膨大な数のレコード、それにレコードプレイヤーとスピーカーがあるんです。父はワーグナーが大好きだったので、ワーグナーを聴くための低音重視のスピーカーなんですが、それが意外にディスコミュージックを聴くのにぴったりなんですよ(笑)。純さんこそ、膨大なレコードコレクションを持っていそうですが。
タブレット 6畳一間のレコード専用部屋を借りていて、そこに保管しています。実際に何枚あるかは全然わからないんですね。でも、ものすごく持っている方からしたら大したことはないはずです。
甘糟 最近はどこでレコードを買っているんですか?
タブレット 『ディスクユニオン』という大手レコードショップにも行きますし、時には古道具屋やリサイクルショップで掘り出し物に出合うことも。絶対に自分しか買わないんじゃないかと思うようなマニアックなものを見つけることもあります(笑)。中古レコードってあちこちの店で探して手に入れるので、見るたびに買った土地のことも一緒に思い出すんです。それも僕にとってはレコードの魅力のひとつかなと思います。
甘糟 私は音の専門家ではないので、詳しくはわからないんですが、レコードで聴くと、デジタルよりも音が空気を含んでいるように感じます。針のパチパチという音も好きですし。
タブレット “懐かしい”といった感覚と、レコードのノイズを含んだ温かみのある音が、よく合うんですよね。
甘糟 今は、いつでもどこでも簡単に音楽を聴けますが、私にとってレコードをかけるのは、ハンドドリップでコーヒーを淹れたりお抹茶を点てたりといったことと似ているのかなと。お店で探して買う、プレイヤーにセットして針を落とす、歌詞カードをめくるなど、レコードにまつわる行為ってたくさんある。その分、たくさんの物語や思い出が生まれるんだと思います。
タブレット純さんを虜にした昭和歌謡
踊り出したくなる甘糟さんセレクト
『クロワッサン』1161号より
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