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【白央篤司が聞く「自分でお茶を淹れて、飲む」vol.15】月永理絵(映画ライター)小さい頃からの習慣で——お茶を淹れるのは“特別なこと”じゃない

ペットボトルは便利だけど、「自分でお茶を淹れて、飲む」行為には、かけがえのない良さがあるように思えてならない……。「生活にお茶は欠かせない」人たちは、どんな風にお茶と付き合っているのだろうか? 『台所をひらく』などの著作で知られるフードライターでコラムニストの白央篤司さんが「お茶」をテーマにインタビューする連載第15回は映画ライター、編集者の月永理絵さんのお話です。

取材&撮影&文・白央篤司

映画ライター・編集者 月永理絵(つきなが・りえ)さん。1982年、青森県生まれ。大学時代から同人誌で映画について書き始め、卒業後は出版社勤務を経てフリーランスに。編集・発行人をつとめたリトルプレスが話題を呼び、映画ライターとして注目されていく。現在、週刊文春をはじめ各誌に映画コラムを寄稿。著書に『酔わせる映画 ヴァカンスの朝はシードルで始まる』(春陽堂書店)がある<br><a href="https://www.instagram.com/rietsukinaga/" target="_blank">Instagram:@rietsukinaga</a>
映画ライター・編集者 月永理絵(つきなが・りえ)さん。1982年、青森県生まれ。大学時代から同人誌で映画について書き始め、卒業後は出版社勤務を経てフリーランスに。編集・発行人をつとめたリトルプレスが話題を呼び、映画ライターとして注目されていく。現在、週刊文春をはじめ各誌に映画コラムを寄稿。著書に『酔わせる映画 ヴァカンスの朝はシードルで始まる』(春陽堂書店)がある
Instagram:@rietsukinaga

世の中にはあまりにも多くの映画がある。観たいものを選ぶのもちょっとした手間、と思う人は多いのではないだろうか。映画ライターの月永理絵さんは、私が何か映画を観たいときに頼りにする人のひとり。月永さんの映画コラムは「うーん、観てみたい」と思わせる力が強い。たとえスタッフやキャストを誰ひとり知らなかったとしても。

ちょうど今週も、週刊誌で紹介されていた新作が気になっていたところだった。ふと、月永さんは執筆の間にお茶時間を設けているだろうかと気になり、伺いたくなる。

月永理絵さん
月永理絵さん

「お茶ですか、ごく普通ですよ。無印良品で気になったものを適当に買ってみるとか。これがまさにそうです」

といって見せてくれたのが、「ルイボス&黒豆茶」。ご自宅にうかがったら、よく冷えたのをまず出してくれる。うん、黒豆の香ばしさがありつつ、やさしい飲み口。いつも水出し派ですか?

「いえ、食後にはお茶を淹れるんですよ。親がずっとそうしていて。お昼を食べてからと、夜ごはんを済ませた後と。小さい頃からそうだったので、習慣ですかね」

谷中『青鶴茶舗』で買った常滑焼の急須
谷中『青鶴茶舗』で買った常滑焼の急須

お茶を飲むならちゃんと急須で淹れたい、と静かに言い切る。愛用の急須にちょっとしたストーリーがあった。

月永さんの夫も映画関係の研究をしていて、大学で講師として勤めている。なおかつ、お茶好きだ。彼がフランスに研究留学した20年ほど前、「向こうで淹れる用に」と急須をプレゼントしたのだった。

帰国後も大事にその急須を使っていたのだが、月永さんが割ってしまい、ふたりで新たに探して、買い直したのが当代の急須なのである。

「ころんとした形で、前のと感じが似ていて気に入りました。シンプルでゴテゴテしていないところが好きです。谷中にある『青鶴茶舗』というお店で見つけたもので、りんごをイメージしたフォルムだそう」

触らせてもらえば、なめらかな手ざわりが快い。お茶を淹れるときは陶器の感触も同時に味わっているなと毎回思う。ちなみに青鶴茶舗は谷中銀座にあり、ご店主はフランス人。数多くの急須と茶葉が選べる店でもある。

茶を注ぐ前に、月永さんは一度湯呑みを温めていた
茶を注ぐ前に、月永さんは一度湯呑みを温めていた

「18歳で家を出てひとり暮らしをするときも、急須と茶筒を持たされましたね。そして母はしょっちゅうお茶を送ってくれていて。私は青森出身ですから別にお茶の名産地でもなんでもないのですが」

お母様はお茶好きなのですね、1日2回お茶を淹れるということからも、うかがえてきます。

「そう……なんですかね(笑)。特別そう思ったこともないんです。あ、この湯呑みは母が作ったんですよ。陶芸をずっとやっているんです」

「全部母が作ったもの」と月永さん。マグの持ち手の感じも手にしっかりとなじむ。戸棚にあった平皿も見事な出来だった
「全部母が作ったもの」と月永さん。マグの持ち手の感じも手にしっかりとなじむ。戸棚にあった平皿も見事な出来だった

なんとなく志野焼を思わせる湯呑みに茶を注いでくれた。口に当たる部分も厚すぎず薄すぎず、ちょうどいい。親御さん手作りのものに囲まれて日々使って暮らしている、というところに仲の良さがしのばれてくる。そして淹れてくれた煎茶がまたおいしかった。

「急須を探していた時期、あるお茶屋さんに入ったんですよ。そこで淹れていただいたお茶がおいしかったので買いました。飲み切れないときは冷凍庫に入れておくといいよ、それにこれは熱湯で淹れてもいいものだからとご主人に言われて。熱湯を冷まさなくていいのはラクでいいな、って」

愛用のやかんは、野田琺瑯の緑色のもの
愛用のやかんは、野田琺瑯の緑色のもの

パッケージを見ると、「80度ぐらいの湯で淹れる」と書いてある煎茶は多い。従ってみれば確かに甘みや香りがよく出ておいしい。しかし、沸いたところを少し冷まそうと思って時間をおくと、ついうっかりしてぬるくなりすぎたり、何かにお湯を1度移すのも手間だったり……という人は多いだろう。

ここで月永さん、お団子を出してくれた。

お気に入りのお茶うけ、巣鴨に本店のある『伊勢屋』のみたらし団子。「熱々の焼きたてのおいしさに感動しました」と月永さん
お気に入りのお茶うけ、巣鴨に本店のある『伊勢屋』のみたらし団子。「熱々の焼きたてのおいしさに感動しました」と月永さん

「近所にある和菓子屋さんのお団子がおいしいんです。コロナの頃に見つけて、みたらし団子にハマっちゃって。急須を持たされ実家を出てからしばらくはお茶を淹れてたんですけど、働き出したら面倒になって、一時は淹れなくなっていました。でも、おいしい和菓子があるならちゃんとお茶を淹れたいな、と」

午前中は原稿に集中し、昼食と夕食の後にお茶を淹れる。2日に1度は趣味で続けているパンを作って朝に食べている。生活の中にルーティンのあることが気持ちを落ち着かせてくれる、と月永さんは言った。

「紅茶などはティーバッグも使ってざっくり楽しんでいるんですが、緑茶だとティーバッグは抵抗があるのは自分でも不思議で。あと最近、友人の家に行って振る舞いを受けて、さんざん飲んだ後に紅茶やハーブティーなどを淹れてもらう機会があったんですね。ああ、お酒の後のお茶っておいしいな……とちょっと感動しました。紅茶などは詳しくないので、これからいろいろ試してみたいんです」

「気軽に読める、映画エッセイ集を出すのが次の夢」と語る
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最後に、お茶のシーンが印象的な映画なんてありますか、とたずねてみたくなった。

「フランス映画、それも最近の映画で鉄瓶や急須を使ってお茶を飲むシーンがあったんですよ。あれ、でもなんていう映画だったかな……(笑)。アメリカ映画ですけど、50年代ロンドンが舞台の『ファントム・スレッド』(2017年)で、主人公が鉄瓶を使って朝の紅茶を飲んでいた気がしますね。それと小津安二郎の映画は湯呑みや急須などがたくさん出てきますよ。『彼岸花』や『お早よう』なんかでは……」

ああ、本業の話になったら月永さんが止まらない(笑)。皆様、これはまた別の機会にぜひご紹介させてください。

パン作りの腕前は玄人はだし。取材で訪ねた日はクランベリーとチョコチップ入りの全粒粉パンを焼いた。朝にコーヒーと楽しむ
パン作りの腕前は玄人はだし。取材で訪ねた日はクランベリーとチョコチップ入りの全粒粉パンを焼いた。朝にコーヒーと楽しむ

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