ポール・スミスの空間演出にも注目!「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」
写真&文・久保田千晴
ポール・スミスの視点を通して、ピカソを見つめ直す
本展のもとになったのは、2023年にパリ国立ピカソ美術館で開催された、ピカソ没後50周年記念の展覧会。ピカソをただ称えるのではなく、あらためて新しい視点から作品を問い直すことを目的に企画されたものでした。そこで白羽の矢が立ったのが、色彩やクラフツマンシップ、そしてひねりのあるデザインで知られるポール・スミスです。
ポール・スミスは、ピカソが生涯を通じて持ち続けた「子どものような自由な発想や遊び心」に着目し、作品を柄のある壁や鮮やかな色面の中に展示。部屋ごとに景色ががらりと変わるので、作品だけでなく、ピカソという一人の人物の変化や広がりをより立体的に感じることができる空間になっています。
そんな魅力ある展示体験にさらに彩りを添えるのが、展覧会アンバサダーを務める俳優・松岡茉優さんの音声ガイド。ガイドでは、ピカソの人生にまつわる大切なエピソードも交えながら作品を紹介してくれるので、単なる作品解説というより、ピカソの歩みを物語のように辿ることができます。
部屋ごとに表情が変わる、色鮮やかな展示空間へ
序盤で印象的なのが、『ヴォーグ・パリ』の誌面に描き込みをした作品。子どものころから雑誌や漫画を愛読していたというピカソの旺盛な好奇心は、さまざまなジャンルを横断しながら発想を広げていくポール・スミスのものづくりにもどこか通じるもの。二人の共通点に思いを巡らせながら眺めるのも、この展覧会の楽しみ方のひとつです。
「闘牛」をテーマにした部屋は目の覚めるような赤、女性たちの作品が並ぶ部屋は鮮やかなバラ色と、空間全体の色と作品の熱量を一緒に浴びるような構成も印象的です。部屋に入った瞬間、その色の強さと美しさにまず目を奪われます。色を大胆に使いながらも作品の邪魔をせず、むしろ魅力をぐっと引き立てているところに、ポール・スミスならではのセンスを感じます。
「アッサンブラージュとコラージュ」のセクションでは、さまざまな模様で彩られた空間が印象的。誰かの家のリビングのように、柄の壁紙の中にアートが飾られている情景をイメージした空間なのだそう。壁紙や日用品を取り込んだピカソの作品に、さらにポール・スミスが柄を重ねることで、空間全体がいっそうのびやかに見えてくるのが不思議です。
本展のハイライトのひとつが、1930年代のピカソが女性たちの肖像に取り入れたストライプ模様をテーマにしたセクション。ポール・スミスはこれらの作品を見て、さらに柄を加えたら素敵だと直感したのだとか。
彼のブランドを語るうえで欠かせないモチーフでもあるストライプを壁いっぱいに描いた空間は、壁の柄と作品の中のストライプが気持ちよくシンクロしていて、心が弾みます。
後半は、晩年のピカソの自由さと親しみやすさに触れられる部屋が続きます。南仏で制作されたユーモラスな陶芸の数々は、晩年のピカソの生命力を感じさせるもの。絵画とも彫刻とも違いながら、どちらにも通じる自由な手つきがのびのびと伝わってきます。
天井から吊るされたボーダーシャツのインスタレーションが目を引く「ピカソのボーダーシャツ」のセクションでは、ピカソという巨匠を、フランスらしいシンプルなボーダーシャツの似合う一人の人間として親しみ直せる、ユーモラスな空間に。
壁一面に世界各地の展覧会ポスターが貼られた部屋も圧巻。街中にポスターを重ね貼りする「フライポスティング」に着想を得た空間で、ピカソの膨大なエネルギーそのものと、生前から死後に至るまでその存在が広く人々に開かれてきたことを物語っています。
ピカソとポール・スミス。時代もジャンルも異なる二人ですが、好奇心やユーモア、実験を恐れない子どもごころのような精神に、どこか通じるものを感じます。ピカソの名作を楽しめるだけでなく、「見る」という体験そのものを自由にしてくれる展覧会。アートに詳しい人はもちろん、最近ちょっと美術館から遠ざかっていた方も、ぜひ会場でその空気ごと味わってみてください。
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」
会期:2026年6月10日(水)~9月21日(月・祝)
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
休館日:毎週火曜日 ※8月11日(火・祝)は開館、8月12日(水)は休館
開館時間:10時~18時 毎週金・土曜日は20時まで ※入場は閉館の30分前まで
広告