【犬・猫の年齢期ごと】日常の飼育費からもしもの備えまで。知っておきたい制度とお金のこと
イラストレーション・ながしまひろみ 構成&文・薄葉亜希子
犬や猫を飼うのに一体いくらかかるのか。生涯の飼育費用は、犬は平均271.1万円、猫は平均160.6万円というデータ(※1)がある。
「犬、猫とも室内で飼うことがメインになり、栄養状態がよく平均寿命が延びています。洋服など嗜好品にもお金をかけるようになり年々費用が増えていますね」と、ファイナンシャルプランナーの舟本美子さん。
そんな家族同然の愛犬、愛猫には元気に長生きしてほしい。そう考えるとお金のことはもちろん、病気や老後への心構えと気になることは次次出てくる。獣医師の臼杵 新さんは、「ペットの健康のために、飼い主と獣医は二人三脚の関係です。気軽に何でも相談しやすい病院を選びましょう」と言い、病気に対する予防の意識も高めてほしいと続ける。
同時に、突然起こりうる災害への備えや、万が一飼えなくなる想定も飼い主としての責任。ペットの防災活動や後見制度に取り組む〈人と動物の共生センター〉を運営する奥田順之さん、いしまるあきこさんは、「情報をきちんと調べ、事前の対策が欠かせません。ペットも飼い主も高齢になるにつれ、日頃から周囲とのコミュニケーションも必要です」。
初期準備や医療費に何かとお金がかかる時期
どんな準備とお金が必要?
お迎え支度、日常的な費用は下の表のとおり。犬は畜犬登録やしつけ料もかかり、畜犬登録は飼い始めて30日以内(生後90日以内の子犬は90日を過ぎて30日以内)と義務づけられている。合計を見ると想像以上にお金がかかる。
「たとえばPayPayポイントはペット用にする、Amazonの定期便で安く買うなどやりくりを楽しみながら迎える準備をしては」(舟本さん)。費用のほか、健康面にも気をつけたい。「迎えて2週間以内に体調を崩す犬猫がとても多いんです。最初は触りすぎずに新しい環境に慣れるのをそっと見守って」(臼杵さん)
生後2カ月を目安にワクチン接種
生まれたばかりの犬猫は免疫ゼロの状態。母親の初乳を飲んで抗体を得るが、約2カ月が過ぎると消失する。そのタイミングで接種して感染症に備えたい。犬は狂犬病ワクチンが年1回義務づけられ、フィラリアの予防薬も必要だ。「狂犬病の予防接種は毎年4〜6月と決められています。接種日を数週間空けて、どちらの接種も春に行うと決めておくといいかもしれません。室内飼いでも混合ワクチンは必要かという質問も多いですね。任意ですが、病気への備えとしては欠かせません。効き目の持続は個体差がありますが、年1回を目安にすると安心です」(臼杵さん)
生後6カ月過ぎたら去勢・避妊手術を考える
犬も猫も繁殖させないのであれば、去勢・避妊手術をするのが一般的。さまざまな病気を防ぐ効果がある。オスは気性が穏やかになりマーキングなどの問題行動を起こしにくくなる、メスは望まない妊娠を防げるなど、人間と暮らす上でのメリットもある。
「オスの場合は睾丸の病気、メスの場合は卵巣や子宮の病気、乳がんの発生率を下げることができます。ただ手術後は太りやすくなるので注意してあげましょう」(臼杵さん)
去勢手術のほうが避妊手術よりも比較的負担が少なく、費用も安くすむ。犬の場合は体の大きさにより金額が変わることも頭に入れておきたい。
犬猫それぞれの体質を知っておく
「1歳前後からその子の体質が現れてきます。一般的に犬は皮膚が弱く高温多湿の環境が苦手。食べものや花粉の影響からかゆみや発疹が出ることも。清潔さを保ち、栄養の偏りにも気をつけて。猫は、特にオス猫は尿路結石になることが多く、いずれ尿検査が必要に。家で尿を取る練習をしておくといざというときに役に立ちます」(臼杵さん)
食事の管理やシャンプー、ブラッシングなど気をつけていても体調を崩すことも。診察の費用は下の表を参考に。自宅で難しい爪切りや肛門腺絞りもお願いできる。他に治療薬は症状によって数百円から数千円ほどと幅広い。
お財布にも優しい健康維持期
かかりつけ医を見つける
若いうちにこそ、信頼のできる獣医師を見つけたい。病院を選ぶ際のポイントは?
「清潔感はもとより、予防的な観点を持って接してくれる先生がいいのでは。家での飼育環境や過ごし方にもアドバイスをしてくれる先生を探しましょう」(舟本さん)
元気なときの様子を知ることは後の診療にも有効だ。
「当然ながら犬猫は自分の体調を伝えることはできません。ふだんの元気な状態を知っておくことが、いざ病気や不調になったときにとても役に立ちます。母子手帳のように、ペットも愛犬・愛猫手帳をつけるのをおすすめします」(臼杵さん)
5歳過ぎたら2〜3年に1回は定期健診を
5歳といえば、人間に換算すると小型犬・猫の場合は36歳、大型犬の場合は40歳と壮年期を迎える。個体差はあるが、老化も少しずつ気になり、健診の考えどきだ。主な検査と費用は以下のとおり。「血液、尿、レントゲン(X線)、超音波検査の組み合わせで金額も変わります。健康状態に合わせて獣医と相談するといいでしょう」(臼杵さん)
それなりにお金はかかるが、病気になる前からの健診結果はあると重宝する。
「データを積み重ねることがペットの体質や変調を把握する手がかりになります。引越しなど病院が変わったときにも役立ちます」(舟本さん)
老いとともに医療費がもっとも嵩む時期
ペット保険は必要? 選ぶポイントとは
ペット保険に入るかどうかは悩む人が多いもの。どんな商品があるかを知ることでその判断がしやすくなる。
「ペットにかかる医療費は全額自己負担。補償割合とはそのうち何割を保険で賄えるかというもので、たとえば10万円かかった場合、70%の割合であれば7万円が戻ってきます。万が一の入院と手術に特化して保険料を抑えるもの、通院もカバーできるフル補償型と大きく2つに分かれています」(舟本さん)
2タイプそれぞれの手頃なおすすめ商品を教わった。保険料はいずれも7歳で加入したときの目安で、幼いうちは数百円程度の場合もある。
「保険料や補償内容のほかに、加入できる年齢も選ぶ基準のひとつ。後日請求する以外にも窓口精算時に保険が使えるなど各社からさまざまな商品が出ています」(舟本さん)
下の表を参考に、保険について一度吟味してみては。
病気のこと、備えについて考える
加齢に伴い病気やトラブルが。
「肥満は万病のもと。フードの適正量、運動習慣を見直し、もし何か患っている症状があれば療法食にするなどの対応をします」(臼杵さん)
下のランキングは主な傷病と、それぞれの診療内容と費用の参考例として紹介。
「ペット保険は手頃な保険料のもので万が一に備え、毎月一定額をペット用に積み立てし、保険が使えない予防のための検査や必要品の購入に当てるのがおすすめ。2本柱で考えると安心です」(舟本さん)
10歳過ぎたら年1回の健診と家でも触診
犬猫の時間は人間の何倍もの速度で進む。健診は年2回、少なくても年1回が理想。
「甲状腺の異常も出てくるので、血液検査にホルモンの検査項目を加えるといいでしょう。家でも体重チェックや毎日触診を行って」(臼杵さん)
この時期、動けるうちに見直したいのが居住空間だ。
「特に犬は気づかないうちに関節の劣化が進みます。2階建ての戸建ての場合、いずれ階段の上り下りができなくなる。歳をとると変化に対応するのが苦手になるため、犬の居住スペースを1階にまとめ、早いうちから慣れさせるのがおすすめです」(臼杵さん)
伴う費用も想定しておこう。
最後の1年間に医療費の90%がかかる
超高齢期を迎えると通院が増え、介護が必要なことも。
「さまざまなフードやサプリ、おむつなど生涯で一番費用がかかります」(舟本さん)
医療費は言わずもがな。「約90%は最後の1年にかかるといわれます。犬猫の健康のためには早期発見が何より。変化にすぐに気がつけるよう、毎日の触れ合いを大事にしてください」(臼杵さん)
※3 保険料は犬猫ともに7歳の混血種、犬は各社もっとも小型の場合で算出。品種や健康状態によっても変わります。
※3 補償対象外のケースなど各社の補償範囲は異なります。
※3 保険料は各社いずれも月額になります。
※4 2023年1月~12月のアイペット損保の保険金請求データを基にしたサンプル調査により算出。
※4 上記の診療内容・診療費は参考であり、実際のお支払い例や一般的な平均・水準を示すものではありません。
※4 診療費は動物病院によって異なります。
※4 アイペット損保「犬のペット保険ガイド」「猫のペット保険ガイド」より引用。
※人間に換算した場合の年齢、および飼育費用や医療費は一般的な目安です。品種や飼育環境によって異なります。
『クロワッサン』1140号より
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