犬猫と共生するために必要なこと──ペットも人も快適に暮らせる家
撮影・渡部健五
ペット共生住宅の専門家として数々の家を手がけている建築士の廣瀬慶二さん。一般家庭を対象としたフィールドワークを20年以上続ける中で、飼育現場の問題点が浮かび上がってきた。
「日本で飼養されている犬猫の数は、15歳未満の子どもの数を上回っています。ところが、子どものための家を建てることはあっても、犬や猫のための家をつくったり改修する人はほとんどいません。ペットの世話は家事動線の一つとして重いウェイトがあるにもかかわらず、キッチンや洗濯機の位置にはこだわって間取りに組み込むのに、犬猫のトイレや食事場所、専用ドアは想定されていないのが現状です」
とはいえ、今は屋内で飼うことが主流。そのため後から次々足していった金網のサークルやケージ、床置きのごはん入れ、ペットトイレなどに人間の生活スペースが侵食され、乱雑になった空間での暮らしを余儀なくされている家庭も多いという調査結果に。
「猫は神経質なので、住居に不満があると爪研ぎやマーキングをして家を傷めることがあります。犬は住居の質には直接的な影響を受けないとされますが、飼い主が家にストレスを感じているとその影響を受けてしまいます」
ともに心身健やかに暮らすためには、ペットとの生活を一時的なものではないと考えること。
「子どもはいずれ独り立ちしますが、犬や猫とはその後もずっと一緒なので、そんなに別れは早くありません。ペットの家具や建具などは消耗品と思わず、一生ものだと考えましょう」
猫2匹、犬1匹と3人が暮らす廣瀬さんの自宅兼アトリエを参考に、ペットとの今後について考えてみよう。
「専用ドア」「フェンス」でゾーニングする
徐々に進入禁止エリアが増え、家の中が金網フェンスだらけ……そんな事態を避けるには?
「人とペット、また猫と犬など異なる動物が一緒に生活を送るには、ゾーニング(区分け)がとても重要です。キッチンや収納など入ってほしくない場所には初めからフェンスをつけておきましょう。浴室や部屋のドアも、レバーハンドルだと猫は飛びついて開けてしまうので、我が家では両面サムターン錠という両側から施錠・解錠できる鍵をつけています」
外に出られないようにすることも忘れずに。
「玄関から簡単に出られないようにする工夫が必要。また犬が急な来客に吠えてしまうのは、犬にとっては仕事の一つでもあります。過剰な反応をさせないためにも、ドアを2枚にしてバッファーゾーンを設けることをお勧めします」
専用家具は不要、「人間のものを共用」
「個人的には、ペット専用家具はいらないと思っています。“ねこねこしい”と僕は呼んでいるのですが(笑)、どうせペットが独占するからと安っぽい家具を置くと気が滅入っちゃいますよね。それは快適な共生とは言えない」
廣瀬さんが勧めるのは、椅子やソファの質は落とさず、張り地をペット仕様のものに張り替えること。
「たとえば、旭化成のスエード調人工皮革〈Dinamica〉なら、引っ掻き傷や汚れに強く、傷みにくいです」
ペット専用の「トイレ」「ダイニング」を設ける
ペットの健康のためにも、トイレやダイニング(食事場所兼水飲み場)は重要だ。ケージなど後付けのものをぽんとただ置くのではなく、間取りの中にあらかじめ組み込むことが理想。
「専用とはいえ、管理しにくい場所ではなく、1日2度以上人が前を通るところに設置しましょう。猫の水飲み場には、常に新鮮な水を用意してたくさん飲んでもらうことによって、将来的な病気も予防できます。我が家は、水が少量出しっ放しになる水栓とシンクを取り付けました」
廣瀬さん宅はペット特有の臭気がしない。
「トイレはペットシートや猫砂の処理がしやすいよう周囲にはある程度の作業空間を、中には低い位置に換気扇を。排泄の場所が決まっていて清潔に保たれていれば、家の中まで臭くなることはありません。人間のトイレと同じです」
『クロワッサン』1140号より
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