「閉じゆく父の命を看取るために繋がった、母と僕と外の世界」、『あなたのおみとり』監督・村上浩康さん【助け合って。介護のある日常】
撮影・井手勇貴 構成&文・殿井悠子
「閉じゆく父の命を看取るために繋がった、母と僕と外の世界。」村上浩康さん
「遠く離れて暮らしてきた親子が介護をきっかけに一緒に暮らすのは、生活ペースが違うし難しいことだと思います。僕の母なんて19時に寝るんです。もうそろそろ晩ごはんを食べないとと言って、15時ぐらいには食事の準備を始めていました」
ドキュメンタリー映画『あなたのおみとり』を監督した村上浩康さんは、末期がんの父親の壮(さこう)さんを介護していた当時を振り返りながら語る。
東京で暮らす村上さんは、実家の宮城まで通う遠距離介護を選択した。
「両親と一番接していたのはヘルパーさん。母とは仲が良かったし、父もおむつを替えてもらったり体を拭いてもらったりして肉体的な接触があった。肌どうしの温もりで生きていることを実感するし、父にとってヘルパーさんとのふれあいは最後の社会との繋がりでもありました。生命の尊厳や実感をぎりぎりまで支えてくれたのはヘルパーさんでした」
寝たきりだった壮さんを自宅で看取ることができたのは、福祉サービスや医療の力を借りることに加えて、ご近所の協力も大きかった。
「父が夜に高熱を出したときは、母は隣の人に来てもらって救急車を呼ぶかどうかをまず相談していたそうです。実際に救急車を呼んだときは母と一緒に朝まで病院に付き添ってくれたり、母が持病で病院に行っている間、父のそばで留守番をしてくれたりしたことも。ご近所づきあいって重要なライフラインであることに気がつきました」
母親の幸子(さちこ)さんは、入退院を繰り返す壮さんの「うちに帰りたい」の一言で、在宅介護を決意した。
「本人の希望どおりに自宅で看取ったので、母としては区切りがついたと思います。母曰く『自宅での看取りを実現させたのは、私たちではなくお父さん自身だった。行儀よくいつもありがとうとまわりに言うし、最期までそんなに苦しまず、死に様もきれいだった』と。
わずか1カ月半の看取りでしたが、毎日、今日が最期かもしれないと思いながら母は介護し、僕はカメラを回した。僕は職業柄映像でしたが、日記でも写真でもいいので記録を残すのはおすすめです。どよんとするときでも客観的な視点で見られるようになるので、まあ、こういうこともあるよなと受け入れられる。先の見えない介護には必要な視点だと思います」
『クロワッサン』1130号より
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