キャリア47年のハーブ・オリーブ研究科が語る、ハーブの魅力とハーブと暮らすためのヒント。
撮影・小川朋央 構成&文・堀越和幸
北村さんから教えてもらう、ハーブと暮らすためのヒント集。
飾るというより、そこに置いておくだけできれいなのよ。
ハーブに囲まれている北村さんの暮らし。きっと部屋の飾りつけなどにも利用している? と思いきや、上のような答えが返ってきた。
「リビングは私の仕事部屋であり乾燥部屋。ここで摘んだハーブを放置したままドライにしていますが、それだけで見ていてきれいなんです」
上写真はマロウとカモミールをただいま乾燥しているところの図。美しい絵の具のパレットのよう。これらがやがて、美味しいお茶になるのは紹介したとおりだ。
「植物は待ったなし。花が咲いたから採ってくれと言われれば、私が体を動かさなければなりません。植物が私を生かしてくれています」
枯れたハーブも、最後まで捨てるところはありません。
前ページ、リビングで作業をする北村さんの写真に再び注目してほしい。部屋のコーナーに立てかけられた、人間の背よりも高い枯れたフェンネルの束。これも“飾り”ではない。
「枯れたハーブは時間のある時に細かく切ってボウルにキープします」
その用途としてはーー。
「お湯に入れて煮出すとその湯気の香りで部屋の空気がきれいになり、家庭内感染の予防にもなるんですよ」
昔のアーリーアメリカンの家では、冬場になればどの家庭でも薪のストーブに鍋をかけてこれをやっていた。
「私は中華鍋にこのドライハーブをチップスとして入れ、上に網を置いてイワシなどの切り身をのせ、蓋をして火をつけ、美味しい燻製を作っています」
自然が美しいイタリアは “ガーデン”を作らないんです。
オリーブオイルがきっかけでイタリアに足繁く通うことになった北村さんは、ついにパルマに家を買う。
「イタリアでたくさんの人からいろいろ学ばせてもらって、何か恩返しをしたいと思った時、私にできることは文化交流?……だったら拠点がいるわ、と通訳の女性にポロッとしゃべったら」
聞きつけた通訳のお母さんが前のめりになって物件情報を調べてくれた。
「石造りの家で、かつては牛小屋だったものをとある画家が改装して使っていたそうです。もう見た瞬間に、景観に惚れて買ってしまいました」
当時は日本の円が高かったことも背中を押してくれた。
「庭というより広い敷地には私の好きな植物、ローリエや栗、菩提樹が自然のまま植わっている。コロナでしばらく行けていないので、そろそろ帰りたい」
フットバスの間はせっかくだから深呼吸もしましょう。
疲れた体にはハーブのフットバスが有効だ。血流を良くし、冷えた体がポカポカ温まる。
「定番はローズマリーとレモングラスです。爽やかな香りが欲しい時はミントを足すことも」
洗面器に入れたハーブに熱湯を注ぎそのまま放置して5分くらい。いいエキスが出始めたら、湯加減を水で調節しながら足を入れる。
「そしてこの待っている間にもぜひ深呼吸をしましょう。いいアロマテラピーになります」
昔のヨーロッパではコップに入れたハーブのお湯から出る湯気を、バスタオルをかぶって吸入したのだそう。風邪をひいた時のちょっとした民間療法。これならすぐに真似ができそう。
良質のハーブが欲しかったら、自分で育てることです。
残念ながら日本のフレッシュハーブはまだまだ高価な存在だ。パックに詰められたほんの少量が数百円もする。
「で、せっかく買ったのに香りがほとんどなかったりするのは、悲しいこと」
ならもう入れなくてもいいか、そう考えてしまう人もいるかもしれない。であるならば……北村さんは自分でハーブを育ててみて、と提唱する。ハーブが育つのは広い庭ばかりではない。
「苗や種を買ってきてベランダのプランターでもいいですし、やってみると意外に簡単であるのがわかるはず」
上の写真はミントの枝葉をコップの水に挿したもの。放っておいたら、いつのまにか勝手に根を出していた。
「ローズマリーも土に挿すと根が出やすい。ハーブは野生の草なんですよ」
『クロワッサン』1122号