「違う自分に出合えるのが着物。さっときれいに着こなしたい。」俳優・真矢ミキさんの着物の時間。
撮影・岩本慶三 ヘア&メイク・小澤久美子 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江 撮影協力・庭のホテル東京
あえてブーツを合わせてみました。自由な発想で着物を楽しみたい。
「理想の上司」「カッコいい女性」などなど、真矢ミキさんを称する言葉はあまたある。それらに対して、
「今まで演じてきた役の影響もありますが、オフの私はそれほど強くはないですよ。でも、どんなことにも覚悟を決めてのぞんでいます。足を踏み入れたことのないフィールドに挑戦するのはワクワクしますが、そんなときこそ覚悟を持って、と言い聞かせています。性別、年齢を問わず、自分を律し、芯のある人に憧れます」
真矢さんといえば、センスある装いでファッショナブル。洋服のイメージが強いが、今日はどんな着物姿を披露してくれるのか?
「最初からこれにしようと決めていました。黒の着物に黒の帯の取り合わせです」
黒一色の中にアクセントにした朱とオレンジの帯揚げが効いている。そして目を引いたのは猫。肩にエメラルドグリーン、帯にはルビーの目がキラキラと怪しく光る。
「本当は犬派なんですよ(笑)。5~6年前だと思いますが、着物用のコートが欲しくて呉服屋さんを巡っていたときに目が合ってしまったんです。エメラルドグリーンの目に射貫かれたといいますか、一目惚れです。“私を連れていって”と言われたような気がして(笑)。同柄で目の色が違う帯があったので、迷わず一式購入してしまいました」
後ろ身頃から上前にかけて肉球が刺繡され、まるで猫が忍び足で帯を通り抜け、肩に向かって歩いて行く……。そんな情景を想像してしまうような着物だ。
「普通に草履でもいいんですが、ちょっと遊んでもいいかなと思い、ブーツを組み合わせてみました。違和感ないでしょう?」
むしろブーツだからこそ、このコーディネイトが生き、着物の新たな魅力が引き出されたと言えそうだ。
「帯留めにしたのは、母の形見のカメオのブローチです。生前、母から『帯留めに使うとおもしろいと思うわよ』と言われていたので、いつか試してみたくて。帯の真ん中にするとバランスが悪いような気がして、エメラルドグリーンの目線の先に来るように留めてみたら定位置のように決まりました。なんだか母がここにしなさい、と指示してくれたような。ここにあることで、体の中心を支え私を守ってくれるような気がします」
真矢さんがこの着物を着るのは今日が2度目。1度目は購入した年に、京都の花街(かがい)で行われた「花街おばけ」に誘われたとき。これは、節分の夜に芸妓たちが趣向をこらした扮装で各座敷を回る行事で、華やかな早春の催しとして知られている。
「東京から自分で着付けて行きました。このときは草履です。いつもは正統な着物姿の芸妓さんたちが、自由に着物を楽しんでいる姿を見て、着物の多様さを知りました。ルールに縛られて、着るチャンスを逃すことはない。楽しむことも大切だと思ったんです」
仕事で着物を着る機会はあるが、オフで着ることが少ないのが残念、と真矢さん。
「理想は着物と対話しながら着ること。“今日は私を着てね”“そうね。帯で遊ぼうか”みたいな。着物は洋服みたいに無造作には着られないですが、いざ!というときに着物をさっと着こなしたい。私にとって着物は違う自分に出会え、背筋が伸びる最強のアイテムです」
『クロワッサン』1109号より
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