くらし

50歳を過ぎて「暮らしを大人モードにシフトチェンジ」、子育てを卒業後、新しい人生を開く部屋作り。

子育てが終わったら、自分時間の再スタート。
50歳を過ぎて住まいと暮らしを大人仕様に取り戻した、イラストレーター・堀川波さんの物語を届けます。
  • 撮影・黒川ひろみ  文・一澤ひらり

ママ友以外の女友だちが家に遊びに来てくれる!それがとっても楽しくて。

リビングで刺し子ステッチを刺していく堀川さん。「ちくちくと手を動かす穏やかな時間の積み重ねに癒やされます」。

築40年を過ぎた戸建ての賃貸物件に10年ほど前から暮らす堀川波さん。地下1階が夫の居室、1階はふたりの子どもの居室、2階がキッチンとリビングダイニング、屋根裏部屋が堀川さんの寝室になっている。

「娘は大学を卒業して社会人になった1年前に独立しました。息子は4月から大学1年生。子育てもようやく卒業っていう感じなので、子ども中心だった居住空間を見直して、大人モードにシフトチェンジしているんです」

【以前のリビング】子育て期、リビングは明るい赤のソファやおもちゃ、オーナメントなどでにぎやかな空間に。それに合わせた柄もののクッションカバーは堀川さんのハンドメイド。

それに伴って、実は堀川さんの仕事にも大きな変化が生まれた。

背もたれの台に並ぶ刺し子ステッチのバスケットは堀川さんの立ち上げたブランド〈dot to dot〉の製品。同じく座面に立つのは猫のバーキン。どちらも丁寧な手仕事によるもの。

「手仕事が大好きで、4年前、籐細工のワークショップに参加してすっかりハマり、籐を編んで作るアクセサリー製作をするようになりました。2年前からは刺し子ステッチの作品も手がけるようになり、どちらもオンラインショップで販売するまでになったんです」

今や手工芸作家としても活躍中だ。

リビングは落ち着いたトーンでまとめられ、ゆったりくつろげる。

インテリアは色の断捨離。シンプルを優先して。

賃貸ゆえに大胆なリノベーションはできないが、まず子育ての思い出が詰まったリビングのソファを買い替えた。

「昨年、50歳の誕生日に50万円のソファを大奮発したんです。ずっと憧れていた北欧の家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーのデイベッド。シックな色合いで安らぎますね」

「刺し子ステッチはラフに刺せるのが魅力。人それぞれの縫い跡が味わいになるんです」と堀川さん。

このデイベッドはデンマークの寄宿舎に置くために製作された名品。

「シンプルで飽きのこないデザインで、リビングがモダンになりました。子どもがメインの時代、ソファはポップな赤でした。でも家で過ごすのは私がいちばん長いし、そろそろ自分のために整えてもいいかなって」

〈dot to dot〉では籐を編んで作るアクセサリーも人気。バングルは水引のあわじ結びをベースに編まれている。

とりわけ大事にしたのは「色の片づけ」。部屋が子どもっぽくゴチャゴチャして見える要因は、モノの数よりも色の数のほうだと思う、と堀川さん。

美しい模様のピアス。

「色のトーンを揃えるだけでスッキリします。うちのリビングはローテーブルや家具のこげ茶をベースに観葉植物の緑をアクセントにしています。娘や息子のカラフルな雑貨がなくなって、ソファの色をブルー系に替えたことで、部屋が穏やかな雰囲気になり大人の落ち着きが生まれました」

リビングの飾り棚には堀川さんの手仕事用の小道具を収納。以前は子どもたちのものでギュウギュウ詰めだった。

リビングに続くダイニングは家族が食事を終えた後、堀川さんの仕事場としても使われている。

「心がはずむように色とりどりのガーランドで装飾していましたが、北欧のヤコブソンランプのウッディな質感に合うように、色の氾らんを抑えたんです。自分にとって心地のいい色を配色することで、リラックスできる空間になって、より快適になりました」

食器が欠損したら、北欧のイッタラ・ティーマの黒い食器に買い替えていくことに。

親と子は別の人生を歩む。面白がることが大事。

ただ、頭を悩ませたのは長女と長男の成長期のものをどうするか。

「屋根裏部屋には娘と息子の思い出グッズをそれぞれに入れた『思い出ボックス』が6箱ぐらいあります。
産着から始まってお気に入りだった服やぬいぐるみ、初めて書いた絵、作文やノート、図画工作とかが詰まっています。
私自身、成人してから子どもの頃のものを見ると当時の記憶が甦るし、自己形成のカケラみたいな気がして愛おしいんです。
だから厳選して残しています。それが子離れの作業にもなっているし、手渡す日も近いかな」

長男の思い出ボックス。堀川さんが作ったぬいぐるみや怪獣グッズなど、お気に入りのものがいっぱいの、まさに宝箱。

親子関係は一心同体になるのではなく、他人の人生として面白がるのが大事かもしれない、と堀川さん。

「リビングの飾り棚は絵本やおもちゃでいっぱいでしたが、思い出ボックスやリサイクルなどに出して片づけ、私の針仕事の道具を収めています」

長男の思い出ボックスに入っているスケッチブックには折り紙が貼られている。「幼い息子が折ったのを一緒に貼ったんです」。

何かを始めるのに、遅すぎることはない。

一方で、子どもたちが使っていたキャラクタープリントの食器やプラスチック容器などは、一掃した。

「バラバラで統一感がなかった食器も断捨離して、色も形もシンプルで好きなものだけをプラスしていくことにしました。欠けたら新しく買い揃えられる定番のものを買うことに決めて、それを北欧のイッタラの黒い食器にしたんです。料理がよく映えるし、洗練されたフォルムで気に入っています」

堀川さんはこれまで家でひとりイラストを描いたり、エッセイを書いてきたが、手工芸作家としての活動は新たな仲間を育む機会ともなった。

【以前の食器類】割れないプラスチックのカップやキャラクターものなど、子ども優先で選んできた食器の出番はもうなくなった。

「ここ数年はコロナ禍の只中でしたが、刺し子ステッチの製作で知り合った同世代の女性たちと、わが家のダイニングテーブルを作業台にして、ちくちく縫いながらおしゃべりをして楽しい時間を過ごすことができたんです。
ママ友とは別の女友だちが家を訪ねて来るようになったのは思いがけない変化で、自分の世界が広がりましたね。しかも来客があることで部屋の片づけができるし、家の中の風通しもよくなって、言うことなしです」

【以前のガーランド】子どもたちの誕生パーティーには堀川さんが作ったかわいいガーランドを天井に飾りつけ、心浮き立つ空間に。

今がいちばん身軽で充実しているという堀川さんだが、その進化と情熱はまだまだ続く。

「40代以降、それまでの服が似合わなくなって何を着ていいのかわからなくなる。そんなおしゃれ迷子のために本も書いてきたのですが、50歳を過ぎてからは年齢や流行に左右されずに日々着られる服を作りたくなったんです。
それで自分でデザインした洋服をオンラインショップで販売する予定。もうドキドキですが、何かを始めるのに歳なんて関係ないですからね」

自分が動けば周りも呼応して人脈は広がっていく。人との繋がりが大きなモチベーションになっている。

キュートな王冠は堀川さんのお手製。「息子はこれを被ってよく遊んでいましたね」。

これからの親子関係は、尊重し合って自分優先で。

家族の変遷とともに住まいのありようも変わっていく。それは自然の流れだが、自分の優先順位を上げることをもっと大切にしてもいいのでは? と堀川さんは提案する。

「子育てが一段落して、自分の時間が自由になったことは大きいですね。泊まりがけの仕事もできるようになったし、友だちとの夜のお出かけも我慢しません。
それは自分にわがままに生きるということではなく、夫でも子どもでも、ひとりひとりの大人同士として、お互いが好きで尊重し合える自分になれる努力をしていきましょう、ということなんですよね。
4年後に息子が大学を卒業したら、家族それぞれが思い思いの場所で暮らすのもいいかなって考えてます。自分を大事にする暮らしをしていきたいですね」

ダイニングは堀川さんの仕事場兼用で、刺し子ステッチ用のかごがオブジェのように下げられている。
堀川 波

堀川 波 さん (ほりかわ・なみ)

イラストレーター

おしゃれや日々を楽しむイラストエッセイが好評。『45歳からの自分を大事にする暮らし』など著書多数。インスタ:@horikawa._.nami

『クロワッサン』1090号より

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