くらし

キャロットケーキマニアの2人が語り合う、その美味しさと多様性。【uraraさん・hamhamsweeさん対談】

ここ数年扱う店が急増中の、キャロットケーキ。
毎日食べるマニアの2人が魅力を語る。
  • 撮影・黒川ひろみ(対談) 文・河野友紀

コーヒースタンド、ベイクショップではすっかりおなじみ、最近はレストランのデザートでも増えつつあるスイーツ。そんなキャロットケーキに夢中な2人が、味や美味しさ、そして多様性あふれる広がりについて、お気に入りの一品を食べながら語り合う。

(左)「 作る人の数だけ味や形が存在する。終わらない冒険のようで楽しい!」(hamhamsweetさん)/(右)「もっちりジューシーな生地と、フロスティングのコンビに夢中。」(uraraさん)

uraraさん(以下、うらら) 私がキャロットケーキと出合ったのは、今から5年前、ハワイ島への家族旅行でした。もともと体によい食べ物に興味があったので注文したのですが、特に味には期待していなかったところ……。

hamhamsweetさん(以下、ハムハム) 美味しかった、と。

うらら そうなんです! そこからもう夢中で、帰りの飛行機でもずっと夫に、「あのキャロットケーキがものすごく美味しかったんだよ」と、うわ言のように語り続けていたらしいです。

ハムハム その後、インスタでキャロットケーキのことばかりアップしている私を見つけてくれたんですよね。

うらら はい。あの頃はまだ、キャロットケーキのことをあげているインスタグラマーはほぼおらず、中でも特化している人はハムハムさんくらいしかいなかった。
それで、この人が投稿したケーキを食べに行く……という“追っかけ”が始まり、そこから私の“キャロケ人生”がスタート。やがて熱いダイレクトメールをお送りするまでに。

ハムハム 私はもともとパンや焼き菓子が好きで、社会人になってからお店巡りを始めたんですね。ある日『サンデーベイクショップ』(東京・幡ヶ谷)に行ったら、一番人気がキャロットケーキだと謳われていて。
実は私、にんじんが苦手なんです(笑)。でもイチオシと言われて食べないのはダメだ!と思い、意を決して食べてみたんです。そうしたら……。

2人が絶賛するキャロットケーキは旗の台の『Chilling Coffee&Bake』のもの。元パティシエの店主作、繊細で美しくとても美味。

うらら 美味しかった(笑)。

ハムハム
 そう! いわゆる「にんじんの味」がしないことに驚き、生地と、上にのっているクリームチーズとのバランスも本当に素晴らしくて。ほかのケーキも食べたのですが、最も印象に残ったのがキャロットケーキでした。

うらら わかります。ハワイで初めて食べたものも、にんじん感が強くなくて驚きました。でも、紛れもなくにんじんが生地に特殊な魅力を生んでいるお菓子なんですよね。にんじんの水分でしっとりジューシーになり、さらにもっちり感もある。

ハムハム しかもお店によって味も形も風味もまったく違うところもおもしろい。食べても食べても新しい味に出合えるので、私はもう、これは一生修業だな、とすら思っています。

うらら 毎日1個必ず食べますもんね。

ハムハム ね。キャロットケーキを食べながら、「明日はどこに食べに行こうかな……」と検索をし、翌日の朝キャロットケーキを食べながらそのお店への行き方を調べ、午後“キャロケハント”に出かけていく。今、私の主食はキャロットケーキなんです。

うらら 会社員時代、同僚とのランチといえばパスタやお米が主流でしたが、私は内心「それでカロリーを摂るよりも、未知なるキャロットケーキ食べたい!」と。レシピ開発をするようになってからは、自分で焼いたケーキがいつも冷凍庫にあるので、毎日安心して暮らしています(笑)。

ケーキだけれど素材選びは自由。組み合わせ次第で味も無限大。

うらら 先ほど、「お店によって全然味が違う、そこがおもしろい」とおっしゃいましたが、私もそこはキャロットケーキの大きな魅力だと思っていて。

ハムハム キャロットケーキの定義って、極端に言えば、にんじんが入っていることだけですしね。

うらら スパイスが入っていて、クリームチーズのフロスティングがのっているイメージが強いですが、そうではないお店もたくさんあります。

ハムハム すべてが作る人の趣味。

うらら 薄力粉にするか中力粉にするか、全粒粉か。そしてその粉を国産で選ぶか、外国産にするか。またにんじんの切り方、量。さらにオイルの種類、ドライフルーツやナッツをプラスするか否か。

ハムハム フロスティングも、クリームチーズのところもあれば生クリームのところもありますね。

うらら 米粉でグルテンフリーにしたり……。そのすべての掛け合わせでケーキが出来上がるわけで、パターンはもはや無限大ですよね。

ハムハム 形も、パウンド型、マフィン型、いわゆるホールもあります。

うらら 器が小さな鉢型で、そこににんじんが植わっているようなユニークな形のところもありますね。

ハムハム あれは可愛い。お店の人も楽しんで作っていそうです。今日おじゃましている『チリング コーヒー アンド ベイク』(東京・旗の台)も私たちが大好きなお店。こちらのキャロットケーキは、パリでパティシエとして働いた経験もある方が作っているだけあり、生地の繊細さが素晴らしいんです。

うらら 形のきれいさも感動的で、フロスティングの塗り方の美しさは、都内ナンバーワンなのではないでしょうか。

ハムハム スパイスは、シナモンとナツメグとクローブ。エキゾチックな印象です。端正なルックスに潜む遊び心を感じました。すごく好きです!

うらら キャロットケーキって、お店によって味や個性が全然違うがゆえに、食べる人の好みもすごく分かれると思うんですよね。でもキャロケ好きで、このケーキを美味しくないって言う人はいないように思います。

ハムハム そう。 よく「初心者なんですが、どこのお店が一番美味しいですか?」と聞かれるんですが、そもそも甘党か否か、軽めかずっしりかなど、ベースの食の好みによって、美味しく感じるものは異なります。お店のおすすめはすごく悩みますね。

うらら その気持ち、わかります。

ハムハム 私は、たくさんの人にキャロットケーキを好きになってほしいので、自分が薦めたお店で「そんなに美味しくないな」と思ってほしくないんです。好みに合わなかっただけなので。だから本当に、おすすめを挙げるの、ものすごく悩んでしまいます……。

うらら その優しさと葛藤が感じられるから、ハムハムさんのレビューはおもしろいし、信用できるんです!

ハムハム だとうれしいですね。

うらら そしてたとえ好みではないケーキに当たってしまっても、なぜか許せるのがこのお菓子の特長なんです。“なるほど、この人の解釈はこういうことなのか”と思い、“また一つ勉強になった”と腑に落ちて終わる(笑)。

ハムハム 本当にそう! どんなキャロットケーキも、キャロットケーキなんです、と言いたいです。

うらら 実は、多様性の見本みたいな存在なんです。

多様性の時代を象徴するお菓子だと思う。

砂糖不足の時代、にんじんで代用。それがケーキ誕生のきっかけ。

ハムハム 由来は諸説ありますが、中世の時代から作られていて、当時は甘味料が貴重品だったため、糖分が高いにんじんを砂糖の代わりに使ってケーキを焼いたのが始まりだそうです。その後、第二次大戦のときにイギリスで、同じく砂糖がなかったことで、キャロットケーキの人気が復活したと聞きました。

うらら 数年前に、キャロットケーキを食べる目的でロンドンに行ったことがあるのですが、本当にあちこちのお店に定番で売られていて、日常への根付き方に驚きました。

ハムハム イギリスだと、家庭のベイクフードとして、レシピが受け継がれているみたいですよね。おばあちゃんのレシピで焼いています、とか。

うらら 日本で言うなら、〈おはぎ〉みたいなものかしら。

ハムハム (笑)。

うらら しかしここ2〜3年で扱うお店も、そして「キャロケインスタグラマー」も増えましたよね。

ハムハム ホントですよね。去年は大手コンビニも販売してくれて、本当にありがたい。感謝してます(笑)。世の中の人が、もっとキャロケの美味しさに気づいてくれたらうれしいなぁ。

うらら 韓国でもキャロットケーキを出すところが増えてるらしいですよ。

ハムハム 確かに新大久保のカフェでも出しているところが多いです。見た目もかわいく作られている印象ですね。

うらら 韓国のものはフロスティングがクリームチーズではなく、生クリームが主流のよう。

ハムハム へぇ、それも多様性ですね。韓国にも食べに行ってみたいな。

うらら それにしても、まったく接点のなかった私たちを出会わせて、そして何時間でも語り合えてしまうキャロットケーキって、本当にすごい。

ハムハム ホントですよね。正直、こんなにキャロットケーキのことばかり考えている自分、大丈夫かしら? と心配になることもあったんです。でもうららさんと出会って、私と同じような人がいる! と、うれしいだけでなく、すごく安心した記憶があります(笑)。

うらら 私もそう。実はキャロケばっかり食べていること、それ専用のアカウントを持っていること、夫にも当時勤めていた会社にも、なかなか言えませんでしたから(笑)。

ハムハム これからも食べ続けて、美味しいキャロケを見つけましょう。

うらら 私も、みんなに焼いてもらえるようなレシピを研究し続けます!

毎日食べ続け、もはや主食がこのケーキ。

Chilling Coffee&Bake

チリングコーヒーアンドベイク
●東京都品川区旗の台5・6・10
YGフラッグ1F 
営業時間:10時~17時 月・火曜休
お菓子の予約などはインスタグラムのDMから。@chilling_coffeeandbake

(2人のおすすめ)ブラフベーカリー

横浜・元町のパン屋さんのキャロットケーキは、uraraさんが目覚めるきっかけになったハワイのキャロケによく似た、ラフな雰囲気が魅力。
bluffbakery.com

uraraさんのおすすめ店

Sunday Bake Shop

東京・幡ヶ谷のお店。「ズラッと並んだベイクフードが圧巻! ふわっ&ジューシーな生地。じゃりっとしたフロスティングがクセになる」。sundaybakeshop.jp

坂田焼菓子店

京都にある焼き菓子のテイクアウト専門店。「上質な素材で丁寧に作られた逸品。お店の雰囲気、パッケージまで最高」。sakatayakikashiten.com

エルマーズグリーンカフェ

大阪に複数店舗を持つコーヒーショップ。「フロスティングが3面に塗られているビジュアルは、関東にないので新鮮。甘い生地も美味」。elmersgreen.com

午後の喫茶マイニチ

取り寄せ可能な大阪のキャロケショップ。新店舗に移転準備中。「味が数種類あり、季節によって素材に変化があるのも楽しい」。インスタ@kissamainichi

hamhamsweetさんのおすすめ店

EMU(エム) Bakehouse

東京・阿佐谷のベイクショップ。「フロスティングを挟み3層のレイヤーで、生地が繊細&軽くて美味。大きいですがペロリ!」。インスタ@emubakehouse

ピタン ビストロ アンド ケークス

東京・麹町のビストロの飾りも美しいキャロケ。「添えられたにんじんのソースにシナモンが掛かっている、創作っぽい感じが好き」。インスタ@pitan_7

パドラーズコーヒー

東京・幡ヶ谷のコーヒーショップのケーキ。「生地はじゅわっとオイル系、にんじんの旨味とたっぷりのレーズンの相性が抜群」。paddlerscoffee.com

QuéBONITA(ケ ボニータ)

通販専門スパイス菓子店。小田原に実店舗を準備中。「惚れ惚れするスパイス使いと、フロスティングの唯一無二さに感動」。インスタ@bonita__elena.o

urara

urara さん (うらら)

キャロットケーキ研究家

「Romantic Foodies」ディレクター。著書に『まいにち食べたいキャロットケーキ』(MdN)が。インスタグラム@carrotcakeholic_urara

hamhamsweet

hamhamsweet さん (ハムハムスイート)

インスタグラマー

キャロットケーキの食べ歩きを記録したインスタグラム@ha
mhamsweetが話題。北は北海道から南は石垣島まで、日々行脚中。

『クロワッサン』1088号より

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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