寄せ木細工の飴色の床に、木材がふんだんに使われた内装。
世界中を仕事場にワインや美食についての著述を重ねてきた中村孝則さんの住まいは、マンションの一室とは思えない温かな印象だ。
厨房を覗けば、コンロには常に茶釜がかかり、釜鳴りのシューッという音が心地いい。シンク正面には厚い木の板が敷かれ、茶碗や茶筅が並べられている。
中村さんは「寿福庵」の庵号を持つ茶人でもあるため、暮らしに茶の存在は欠かせない。抹茶、煎茶はもちろん、コーヒーも味噌汁も茶釜で沸かした湯を使うと格別においしいそう。
「師匠には怒られそうだけど。でもいいの! 不良茶人だからね」と破顔一笑。なんともチャーミングな茶人なのだ。
その不良茶人の生活もコロナ禍をきっかけに規則正しく健康的に一変した。
「夜ごと酒を飲んで美食を楽しんでという日々だったんですが、今は完全に朝型シフト。体調もいいし、午前中に原稿もはかどるからいいことばかりですよ」
毎朝7時前には起床して、妻とふたりで厨房に立つ。
朝食はもっぱら和食で、20年来使っている土鍋で米を炊き、味噌汁を作り、主菜を1品用意する。
最近ハマっているのが沖縄のサクナ(和名ボタンボウフウ)。長寿が期待できる長命草とも呼ばれ、実際、抗酸化物質などを多く含んでいる。中村さんはこれをジェノベーゼソースのようにして、パスタはもちろん、茹で野菜や豚肉にかけて常食しているという。
「おかげで疲れ知らず!」
健やかな日々はしばらく続きそうだ。