現在の横山さんの肌にシミなどは見当たらない。白く健康的な美肌だ。
「健康にも美容にも大切なのは、“美腸”です。私の一汁四菜は、野菜と発酵食品がたっぷり。だから、腸の調子が整います。ある時、野菜の量を量ってみたら、1食で600gでした」
一食で! 厚生労働省が推奨する一日350gの野菜を摂ることすら大変なのに。しかし、おかずを3品、4品作るのは、なかなかハードルが高い。
「いいえ、大丈夫。コツは作り置きや保存食を上手に使うこと。そうすれば、ちっとも難しいことはないんです」
横山家のある日の献立を見てみよう。黒豆ご飯に具だくさん味噌汁、豚肉の白菜巻き、煮物、かぶの酢漬け、漬物。
「一見、手が込んでいるようですが、煮物は多めに作った作り置きですし、酢漬けや漬物は常に仕込んであるもの。ご飯は用意しておいて炊飯器のスイッチを入れただけ。この食事のために改めて作ったのは、メインの白菜巻きと味噌汁だけです」
食事は毎日のこと。簡単に手早く作れるものでなければ続かない。
「ご飯、味噌汁、メイン、煮物、酢の物、漬物。このスタイルに決めてしまえば、毎日の献立を考えるのは意外と簡単です。忙しい時はメインは買ってきたコロッケとフライ、煮物は缶詰を使って手早く作る。酢の物は市販のもずく酢とかでもいいんです。ほら、バランスのよい食事ができました」
昔ながらの郷土料理は、実はシンプルなのだと、横山さんは言う。
「私の郷土料理の師匠は生産者さんです。農家を訪ね、一番おいしい食べ方を教わります。野菜の郷土料理は全部シンプルなんです。なぜって、土が一段階前の調理をしてくれているから。その味を引き出すには、煮る、焼く、蒸す、炒める、揚げる、漬ける、調理法はどれかひとつでいいんです。それが良い野菜に失礼のない食べ方です」
シンプル調理と保存食が一汁四菜の鍵。その保存食のひとつ、横山さん流干し野菜も興味深い。
「私、野菜を今時の冷凍保存をしたことがないんです。漬物や干し野菜にすれば保存性が高まる上、太陽の恵みで旨みが凝縮し、ビタミンDも増えます。保存というものは、季節をその時の食材に閉じ込めるものだと思うんです。暑さ、寒さ、小春日和。季節を含んでいるからこそ旨みも栄養も増して、私たちの体を補ってくれます」
横山さんのすすめる干し野菜の切り方は、千切り。一番早く干し上がり、調理時にも早く戻せる。
「天気の良い日に干せば、6時間ほどで完成です。3分の1ほどに縮むので、省スペースで保存できます。味噌汁や煮物などに重宝しますよ」
水で戻せば和え物やサラダにも。
「寒さの厳しい信州では食物が収穫できるのは、たった半年間だけ。でも、溢れるほど採れるんです。だから、その恵みを大切に保存して、いかにおいしく飽きないように食べ回すか。それが、漬物や佃煮、干し野菜なんです」