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私のエネルギーは、自分で描いた幸福が挫折したところから出てきたようです――石井好子(シャンソン歌手)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、あのシャンソン歌手の言葉から、人生の機微にふれてみましょう。

文・澁川祐子

私のエネルギーは、自分で描いた幸福が挫折したところから出てきたようです――石井好子(シャンソン歌手)

1979年7月10日号「女の顔も履歴書である」より
1979年7月10日号「女の顔も履歴書である」より

前回(→記事はこちら)と同じく「女の顔も履歴書である」という特集からの名言です。発言の主は、名著『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』など料理エッセイの名手としても知られる、シャンソン歌手の石井好子さん(1922-2010)。

1950年代にサンフランシスコに留学したのち、パリでシャンソン歌手としてデビューし、独自の道を切り拓いてきた石井さん。しかし、若い頃は〈「女は独立する力を持っていないと不幸になる」と教える〉母親に対し、自身は〈女の幸せはいい人と結婚して、子どもを生み、平和な家庭を築くことだと思いこんできた〉と語ります。

しかし、最初の結婚はうまくいかず、離婚を機にサンフランシスコへ。〈歌で生きていく以外に道はないというほど追いつめられ〉た状態で、必死に歌ったといいます。当時は〈自分の求めた幸せじゃないのだ、という惨敗者の気分だった〉けれど、あのときほどエネルギーにあふれていたことはなかった。そんな思いが、この名言には込められています。

ひるがえってこの時、石井さんは55歳。若い人のほうがいいに決まっているから、若い人とは闘わないといいます。

〈こっちはどうしたって古くなる。さびてくる。そのさびをどこまでみがいていけるかってことです〉

さらに〈55過ぎて初めて、人生の深い意味の歌が歌える時がきたと思っています〉とも。理想にとらわれなくなってからが、人生の本番。そこからの確かな足取りが、よいも悪いもひっくるめて老いをまっすぐに受けとめる言葉に結実していました。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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