中嶋朋子さんが選ぶ、大人に希望をもたらす3冊の絵本。
撮影・黒川ひろみ(本)
中嶋朋子(なかじま・ともこ)さん
女優。映画、舞台のほか、ラジオパーソナリティー、ナレーターとしても活躍。本誌連載エッセイ「眠れる巨人」も好評。今秋は舞台『リチャード二世』に出演予定。
『永い夜』
眠れない夜に心を巡る不安や孤独の美しさ。
誰もが幼い時、いや、大人になってからも、きっとやったことのある、答えのない“めくるめく空想哲学ジャーニー”。眠れない夜、それは、無限の世界に開かれた窓。そこで私たちは、心を自在に羽ばたかせ、小さな自分も、大いなる自分も探し出せるのです。シンプルで、どこかぬけ感のある絵が、密になる思考や思いを癒やしてくれます。この絵本の少女のように、夜な夜な、ゆるやかなマインドダイブ。おすすめです。心の旅を、つまらない妄想だなんて言わずに、ね。
『アライバル』
人はみな、人生という旅の途中にいると気づかせてくれる。
たぶん知らない土地。見慣れない文字にあふれ、ありえない生き物が闊歩する。いつの時代なのかもわからない。そして、文章もない。それなのに、胸が痛いほど懐かしく、いつまでも寄り添っていたいと思う。
この絵本が語るのは、ささやかだけれども、壮大な、人生という旅の、断片。この絵本世界と歩んでいると、私たちは、みんな、旅の途中なんだと気づかせてくれる。
仄暗く、どこか温かい絵は、キャンドルの炎に浮かび上がった一瞬の幻のよう。消えいりそうな儚さは、私たちが、しっかりと掴んでおかなければいけないものがある、ということを伝えている。すべての人は、大きな時の流れに漂う旅人。そこで何を見、感じ、学んでいくのか……大切な問い掛けへの誘い。
どこでもないどこかの、いつでもないいつかの、私たちの物語なのです。
『漂流物』
拾ったカメラに残された世界を語る文字のない絵本。
描かれる世界のポップさ、細やかさに、何度も何度もダイブして、味わい尽くしてほしい一冊。私たちの世界は、いまだ驚きに満ちている。「知っている、わかっている」と思うなんてナンセンス。「こうだろう、ああだろう」と決めつけるのはまだまだ早いのです。この作品は、世界に開かれる目をいま一度見開かなくては! そう思わずにはいられなくしてくれる。微笑みと好奇心を手に、見たい世界を切り開く――巡りくる明日という日が楽しみになる絵本。
『クロワッサン』1025号より
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