くらし

穂村 弘さんが選ぶ、大人に希望をもたらす3冊の絵本。

幼い頃に感動と喜びをくれた名作を改めて読んでみたり、新たな作品に触れてみたり。絵本好きのおすすめはきっと私たちの曙光になる。
  • 撮影・黒川ひろみ

『まよなかの ゆきだるま』

森 洋子 福音館書店 800円

幼い頃の聖夜を思い出す白黒赤が基調の美しい世界。

子どもの頃のクリスマスの特別さが描かれています。眩しいほどに輝く雪の夜の描写が素晴らしい。オールカラーではなく、白黒と赤だけの画面が、クリスマスという特別な夜の聖性を逆に強めているようです。

作者の子ども時代がイメージされているのでしょうか。畳の部屋に足踏みミシンと箪笥と布団があったり、木の窓の桟に雪が積もっていたり、そんなノスタルジックな雰囲気も魅力的です。

『おなみだぽいぽい』

ごとう みづき  ミシマ社 1,500円

 「わたし」だけの感情表現が読み手の心も溶かしていく。

〈じゅぎょうのとき せんせいのいうこと わからなくて なみだ こぼれそうなとき あります〉という冒頭の一文から引き込まれます。どこか片言めいた不思議な口調がいい。これが「じゅぎょうのとき せんせいのいうことがわからなくて なみだがこぼれそうなことがあります」だったらどうだろう。表現としてはより正しいと思うけど、胸に迫るものが消えてしまいます。正しい言葉は万人のもの、ということは実は誰のものでもないってことじゃないか。『おなみだぽいぽい』には「わたし」だけの言葉の中に感情が溢れています。〈ぱんのみみ たべました かくしておいた やつです わたしは ぱんのみみ すきです〉〈だから なきました おなかのおくに ある かたまり ふつふつ ぜんぶ なみだに なるように〉などなど、「わたし」だけの「すき」や「なみだ」が手放しで語られていて、その濃さに触れる時、読み手である一人一人の「わたし」の心も柔らかく溶けてゆくみたいです。

『きょうのごはん』

加藤休ミ 偕成社 1,200円

猫の目を通して覗き見するいろんな家庭の晩ごはん。

〈きょうの ごはんは なーに?〉と、一匹の猫が窓から各家庭の晩ごはんを覗いてゆく話です。

いろんな家族がいろんな部屋でいろんなごはんを食べている。こんがり焼けたさんま、みんなで作ったカレーライス、父さん得意のオムライス、上手にできた手作りコロッケ、お祝いのお寿司、屋台のうどん……。その様子を見ているだけで、なんだか元気が出てくるようです。最後には猫自身のごはんも登場します。

穂村 弘(ほむら・ひろし)さん
歌人、エッセイスト、翻訳家。絵本翻訳も多数。また絵本作家として『あかにんじゃ』(絵・木内達朗)、『まばたき』(絵・酒井駒子/共に岩崎書店)などの著書も。

『クロワッサン』1025号より

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