くらし

夏場の寄席や落語会で無いと困るものとは?│柳家三三「きょうも落語日和」

  • イラストレーション・勝田 文

これからの時期、寄席に欠かせないもののひとつ、それは「冷房」です。
「そんなもののない江戸時代から寄席はやっていたじゃないか」というご指摘はあるでしょう。ごもっともです。
けれどクーラーという便利かつ快適なものが当り前となった現代で、暑い真夏に寄席に冷房が入っていないと知ったら、行くのをためらうお客さまが大勢いるであろうことは容易に想像がつきます。事実、冷房が当り前ではなかった時代から、正月明けで出費を控える二月と暑い八月にはお客足が落ちる“二八(にっぱち)”という言葉も存在します。

記憶に強烈に残っているのは、埼玉県は飯能市の中学校、夏休みに入る直前の七月中旬に空調のない体育館での公演でした。

だまっていても汗が吹き出すような日だったのですが、また悪いことに音響機器が不調で、広い体育館に集まった生徒さんに聞こえるように声を張りっぱなし。通常の学校公演は数組の芸人が一座でうかがい一組の持ち時間も20分ほどがほとんどなのですが、その日は予算の都合で出演者は私ひとり。大声で一時間以上しゃべり続けて汗をかくなんてんじゃない、滝のように流れ落ち、着物はびしょ濡れで色が変わるし、重たいし、洗い張りに着物屋に出したらその日のギャラより高かった……泣けますよ、これは。

とにかく夏場は水分とって、落語日和をお楽しみくださいね。ああ、そういえば某寄席は昔(昔ですよ、念のため)、夏場になると仲入りの少し前に寄席の冷房を切っちゃうんです。席亭いわく「こうすると休憩に売店のジュースが売れる」って、そうかもしれませんけど……。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は公式サイトにて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1024号より

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