【歌人・木下龍也の短歌組手】頭から離れない詩はありますか?
〈読者の短歌〉
地球からわたしを救うイメージで塩らーめんのコーンを掬う
(川元ゆう子/女性/テーマ「私」)
〈木下さんのコメント〉
おれは海の生物まで救うイメージで一滴のこらず飲み干すぜ。健康を犠牲にしてな。
〈読者の短歌〉
蒸しケーキ味の北海道を割り西北海道にかじりつく
(砂崎柊/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
ヤマザキの北海道チーズ蒸しケーキ!おいしいですよね!あれ?こういう記事で商品名を書いて大丈夫なんでしょうか。以前NHKのラジオ番組で「ポカリスエット」と発言してしまいそれから気をつけるようにしています。
でもおいしいよな!ヤマザキの北海道チーズ蒸しケーキ!「蒸しケーキ味の北海道」と捉えたことで巨人がかじりついているような光景が頭に浮かび、さらに「西北海道」と付け加えることでフィクションの精度を上げています。
〈読者の短歌〉
救済に向かって歩くこの道を泣いてほしくて駆け足でいく
(神戸麻衣/女性/テーマ「老い」)
〈木下さんのコメント〉
『老い』というテーマから察するに「救済」とは死のことでしょうか。人生とは死に向かって歩く道。不摂生によって老いを加速させることで人々の涙を集めていざ救済へ。っておい!死は何も救済しないぞ!!ただの無だ!!!走るな!!!!止まれ!!!!!引き返せ!!!!!!
〈読者の短歌〉
大好きな柴犬いてももう駆けない案外ながく待っててくれる
(ばなな/女性/テーマ「老い」)
〈木下さんのコメント〉
老いたのは柴犬でしょうか、それともこの短歌の主人公でしょうか。柴犬が老いたのであれば「ながく待っててくれる」理由になりそうですし、この短歌の主人公が老いたのであれば「もう駆けない」理由になりそうです。あ、でもそうか、どちらも老いたと考えることもできますね。老いた柴犬にゆっくり近づいてゆく老いた人間。老いた柴犬は老いた人間を薄目ではあはあ言いながらじっと待っている。なんてしあわせな光景なんだ。そしておれは犬の短歌に甘いな。
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