「ただ実感がないんですよね。小説を書き終わっても、これ、誰が読むんだろうなーと。変ですよね(笑)。感想をもらったりすると、それなりに読んでくれているのかなとは思いますが。成長ですか? 上手くなろうとは思ってますが、初作を書いた時のほとばしった感覚はないですし、面白いかどうかも分からない。上手くなり方が間違っているかもしれないし、自分の進んでいる方向が正しいのかどうかも。永遠のテーマですよね」
東京ドームで5万人のファンを前に歌い踊る日もある。一方で、入稿してからゲラが出るまで、または校了してから本の発売までの、誰からも評価を受けない空白の時間が何より好き、無敵だと笑う。書くことって、楽しいのだろうか。
「楽しい時のほうが少ないです。むしろ、楽しんだら終わりですよね(笑)。人間を見つめることって、明るい行為ではないと思うんです。僕は元々、心根が明るいわけじゃないし、ひとりっ子なので自分を内省的に見ていたところもあったかもしれない。だから、書くことは楽しくなくても、書いていない時のほうが、むしろ苦しかったです」
加藤さんが望むことは「書き続けられる環境にいること」。心に溜まった何かを言葉にする、作品を生み出すことで不安はなくなり、それ以上のことを望まなくていい。
「恵まれた立場にいます。ただ、一度立ち止まるとまた始めるのは大変だから。この1年で40万字は書いたんじゃないかな。書いてるうちに、またいろんなチャンスに出合えたらいいなと思ってます」