くらし

井川直子さんが薦める、食エッセイ&インタビューの2作品。

読み応えある「食エッセイ&インタビュー」に関する2冊を、本読みのプロが紹介します。
  • 撮影・黒川ひろみ 

{食エッセイ&インタビュー}

井川直子(いかわ・なおこ)さん●文筆業。秋田県生まれ。近著に母のことを綴った『不肖の娘でも』(リトルドロップス)、『変わらない店』(河出書房新社)。

食をテーマに長年続く名店や生産者にスポットを当てた著書を多数上梓している井川直子さん。推薦してくれた『舌の記憶』は脚本家の筒井ともみさんが東京・世田谷で過ごした幼少期の「食」にまつわる記憶を描いたエッセイだ。

「筒井さんの味覚に対する感性に圧倒されます。母親が作ってくれた白玉の味を語る際には、喉越しの感触など艶のある表現とともに、昭和の台所の仄暗い気配や空気感までが文章から伝わってきます。『夕暮れのジャムパン』というタイトルで当時のちょっと毒々しいジャムの色が靴屋の棚に飾られた赤い靴に重なることを綴った文は筒井さんの記憶のなかに同席させてもらうような気持ちになります。ひとつひとつのエッセイに世界観があって、映画を観るような感覚でひきこまれます」

『料理狂』は日本におけるグルメ文化の礎を築いた和洋シェフ9人の異国での修業体験や仕事論をまとめたインタビュー集。

「聞き書きの名手である木村俊介さんがまとめているだけに、文章も肉声を聞いているような臨場感があります。一般的なプロフィール紹介ですと〝海外の三ツ星レストランで修業〟という1行ですまされてしまうその陰での苦労や思いを引き出すとともに、現役でシェフを続けるなかでの『自分にできるのはドキドキして調理場に立ってやりきるだけ』とか、『バカみたいに時間がかかることに仕事の本質がある』など、いい意味で好きなものにしがみついて生きてきた人たちならではの鮮烈な言葉がインタビューのなかにあふれています。彼らがふるまう料理やお店を思い描きながら、生きるうえでのヒントをくれる言葉が見つかる一冊かと思います」

追憶に満ちた味の描写と料理人の肉声を堪能する。

『舌の記憶』筒井ともみ 著 昭和30年代の東京・世田谷を背景に、母と女優の伯母と暮らすなかでの「食」の記憶を映画のワンシーンのように切り取ったエッセイ集。巻末には、紹介した料理の一部がレシピとともに掲載されている。スイッチ・パブリッシング 1,800円
『料理狂』木村俊介 著 谷昇、鮎田淳治、野﨑洋光など和洋料理界を代表するシェフ9人の肉声が一人称形式の文章で、鮮やかに浮かび上がる好編。読み進むにつれて、彼らの構えるお店で自慢の料理を食べたくなるはず。幻冬舎文庫 580円

『クロワッサン』1010号より

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