くらし

乗物の中では自分を遊ばせているわけね――増田れい子(毎日新聞編集委員)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、多忙な人の時間術をのぞいてみます。
  • 文・澁川祐子
1978年10月25日号「自分の時間をもつためのわたしのコーナー」より

乗物の中では自分を遊ばせているわけね――増田れい子(毎日新聞編集委員)

自分だけの時間がもてる場所を、30代から40代の女性にインタビューした記事。なじみの喫茶店から自宅の居間にある安楽椅子、近所の散歩道までと、答えは人それぞれ。便箋を持ち歩き、その便箋を広げて手紙を書くひととき、という人もいました。

そのなかで語り口が抜群におもしろかったのは、毎日新聞初の女性論説委員を務め、エッセイストとしても活躍した増田れい子さん(1929-2012)。以前登場した住井すゑさんの娘としても知られています。

新聞記者として忙しく動きまわる増田さんにとって、自分の自由になる時間は<ひとつの仕事から次の場所への移動の時間>。だからタクシーで早く行くなんてもったいない。前の時間を早めに切り上げ、あえてバスに乗るのだといいます。

時間はみんなに平等に与えられているようでいて、仕事に追われている人には短く感じられるもの。ならば<なおのこと少ない時間の主人公になって楽しまなくてはね>と増田さん。

乗りものでは、気のおもむくままに車窓を眺めたり、本を読んだり、考えごとをしたり。その余白の時間がまた仕事にもいい効果をもたらすのでしょう。

乗りもので自由に遊んでいるうち、<偉大な発見でもするかもしれないわ>と、最後につけ加えるところもチャーミング。自分だけの時間を持ついちばんの秘訣は、物理的な時間や空間の問題というより、その瞬間にいかに自分を解き放つことができるかなのだと気づかされました。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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