くらし

【山田ルイ53世のお悩み相談】収入が悪くはないが仕事が向いてない会社、転職すべきでしょうか。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は待遇は悪くないが、仕事で結果が出せずに肩身が狭いという、30代の女性からの相談です。
  • 撮影・中島慶子

<お悩み>
現在の職場で肩身の狭いまま働き続けるか、いっそのこと転職しようか迷っています。
現在の仕事は事務の傍らセールスもします。事務の仕事は好きですが、セールスが苦痛なのです。
顧客にアポイントを取り、商品を気に入っていただくよう説明、そして購入していただく。顧客を気持ち良くさせるトークができず、良好な関係を築けないので、成績も常に下位。
いっそのこと転職したい、そう考える毎日です。
すでに30代、この仕事で今後好転するとは思えない。しかし生活を支える収入は下位でも悪くない、共働きに理解あり福利厚生も良い。 生活のためと割りきるべきか悩みます。 (玉ねぎ納豆/女性/金融関係の業務を行う30代の会社員です。幼児の子供が二人いる共働き家庭です。)

山田ルイ53世さんの回答

成績が芳しくなく職場で肩身が狭いので、「いっそのこと転職しようか迷っている」という玉ねぎ納豆さん。
「セールスが苦痛」とありますが、文面から察するに能力云々というより”向き不向き”の問題かなと、社交が苦手な筆者は勝手に想像していますが、いかがでしょう。
成績が下位というのも、会社にとって全く戦力にならないレベルなら、早々に解雇されているような気もします。
そもそも、上だ下だというのは、所詮相対的なもの。
かつて世を賑わした、”一億総活躍”なるスローガンも、実現すれば、もはや誰も活躍していないのと同じことです。
怠けているわけでもないし、そう気に病まずとも……と言っても相談者の気分は晴れないでしょう。

”肩身が狭い”と仰るからには、会社に貢献できず気まずい、申し訳ないといったお気持ちがあるのでしょうか。
これは他人事ではありません。
テレビの生放送、大型特番のひな壇に座りながら一言も喋らず終了……なんてことは筆者にも覚えがあります。
そういう時は、スタッフの方の、
「お疲れ様でした!」
の一言が、
(何にも仕事してないのに……)
と自尊心にグサッと突き刺さり、情けないものです。
こんな風に書くと、
「だから、一発屋なんだろ!」
とのご指摘があろうかと想像しますが、いや、まあ、その通り。
一方で、上手く仕事を完遂出来た、”ハマった”ことも多々あるからこそ、一発屋になれたとも言えます。

自己弁護はさておき、それでもさしあたって筆者が今の仕事を辞めることはありません。
別に、
「俺にはこれしかないのさ……」
と格好を付ける気は毛頭なく、駄目なこと、出来ないこと、情けないこと、恥ずかしいこと……色々テンコ盛りですが、(まあまあ)得意で、(そこそこ)結果を出せる案件も中にはあるからです。
つまりは飯が食えるということ。
これは大事。
決して、軽んじてはいけません。

あくまで、筆者ならという話ですが、相談者と同じく小学校1年生の長女と生まれて数か月の次女、2人の幼い子供の父親として率直に言うなら、今の職場に残るのも悪くないと考えます。
いや、つまらない人間と笑って下さって結構。
「自分の好きなこと、楽しいことをやるべき!」と助言した方がポップなのは百も承知ですが、天才ならいざ知らず、筆者のごとき凡人には飯が食えるというのは何事にも代えがたい重要なことなのです。
ましてや、「収入は悪くない」し、「共働きに理解があって、福利厚生も良い」となると、これはもう「良い会社」の部類に入るのではないでしょうか。

勿論、「セールスが苦痛」という相談者のストレスがもはや限界、このままでは心身ともに悪影響が出る、自分が潰れてしまうということであれば、元も子もないので転職も視野に入れるべきなのは言うまでもありません。

とは言え。
次の職場で、相談者の言う「好転」が約束されているかは分からない。
とかく人間は、希望より不満を見出す方が得意な生き物です。
何があるか分かりません。
なので転職するなら、今の(部分的にでも)恵まれた環境に身を置いている内に、資格でも何でも良いので新しいスキルを身に着けてから出奔するのが肝要かと。

オーディションを受ける際、事前に提出するアンケート用紙の”最後に一言!”的な欄を、「何でもやります!」「頑張ります!」で埋めてしまう若い芸人が少なからずいます。
これは、極論すれば、「特に出来ることはありません!」と白状しているのと同じこと。
アピールにはなり得ません。
「事務の仕事は好き」というのも(勿論、幾つかの資格をお持ちの上でやっておられると思うのですが)、より自分本位で仕事を選びたいのなら、少々弱いかと。
必要なのは、どの業界でも意気込みではなく、技なのです。

最後に、生活のため(=子供のため、家族のため)に”割り切る”と考えるのはよろしくない気がします。
自分の幸せ、自分の安定のために割り切って頂きたい。
でないと、いずれ「子供達のため」ではなく、「子供のせいで」となる日が来るかもしれません。
とっ散らかって申し訳ないですが、ご武運を。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
⇒ 公式ブログ

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